ケーススタディから考える診療報酬
第26回
認知症ケアの新しい展開 〜身体拘束最小化チームと加算

近年の診療報酬改定のケアにおけるキーワードである「認知症」について、2024年度の診療報酬改定では、「身体拘束の最小化の義務化」と「認知症ケア加算の点数変更(身体拘束をしなければ点数が上がるが身体拘束を行うとこれまで以上に減算される)」という、主に2点が変更となりました。「やることが増えた」という現場の声も聞かれますが、今回は、改定を追い風にすることができた、ある病院のケースを紹介します。

ケース:身体拘束率を限りなくゼロに近くする

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

日本の南にある200床未満のケアミックス病院(急性期一般入院料1と地域包括ケア病棟を有し、認知症ケア加算1を届出ている)のお話です。この病院では、認知症看護の認定看護師であるAさんを中心に、身体拘束をなるべく行わないような取り組みを行ってきました。課題は、病院全体で認知症ケア加算において20%前半程度の身体拘束率に改善した後、それ以上改善が滞っていること。
その最中、2024年度診療報酬改定が行われ、入院料の通則が変わり「身体拘束の最小化」が義務化され、チームをつくる必要が生まれました。
制度上、この「身体拘束の最小化チーム」は認知症ケア加算1の要件であるチームと兼ねても良いとされています。しかし、同院では、あえてこの「身体拘束最小化チーム」は「認知症ケア加算チーム」と別の人員構成にすることにしました。

Aさん「身体拘束を最小化するには、現場の意識改革と行動変容が欠かせません。今までもそうして取り組んできましたが、私たち加算のチームメンバーは医療者としてベテランで役職者の集団のため、どうしてもスタッフレベルの気持ちを動かすまでに至っていないと感じていました。
そこで、今次改定で必要とされた身体拘束最小化チームは、入職後2〜3年目の若手メンバーを中心に人選したのです。どうなるか、楽しみです」

すると、1カ月ですぐに効果が現れました。病院全体で20%台から変化のなかった身体拘束率がみるみる下がり、直近の3カ月平均では、なんと5%に激減したのです。この数値に病院全体は喜びにあふれ、院内SNSで院長先生から絶賛されたのでした。
今でも現場で身体拘束の最小化に向けた意識改革と行動変容を行う「身体拘束最小化チーム」と認知症ケア加算の算定要件である「認知症ケア加算チーム」が行うケアの質向上に向けた取り組みがうまく連携し、成果を上げ続けています。

このケースのように、別途チームをつくっている病院は多くない印象です。
身体拘束最小化チームについては経過措置が設定されているため(入院基本料または特定入院料を3月31日時点で届け出ていた場合、25年5月31日まではこの基準を満たしていると見なす)、まだ、チームとして確立していないところもあるかもしれませんが、今回のケースのように、実際に身体拘束を最小化するために取り組むことで成果を上げている病院もありました。
「改正で必要だからチームをつくらないといけない」という義務感でただチームをつくるのではなく、実際のケアに役立てるような取り組みに変換してみてはいかがでしょうか。

認知症ケア加算は、身体拘束を最小化すればするほど加算で収入が大きく引き上げられるものです。このケースが、皆さまの病院における身体拘束最小化の一助になれば幸いです。

最後になりますが、毎年更新されるNDB(ナショナルデータベース)の最新公開データのなかから、2022年度における全国の認知症ケア加算における身体拘束割合についてお示しします(図表)。目標設定などにお役立てください。

表 2022年度身体拘束率が高い都道府県

順位 都道府県 令和4年度
(2022年度)
1 茨城県 46.89%
2 山梨県 44.22%
3 神奈川県 43.99%
4 栃木県 42.70%
5 埼玉県 41.15%

表 2022年度身体拘束率が低い都道府県

順位 都道府県 令和4年度
(2022年度)
1 石川県 17.46%
2 島根県 17.46%
3 鳥取県 18.74%
4 長崎県 23.79%
5 北海道 24.67%

図表 2022年度認知症ケア加算 身体拘束算定率
図表 2022年度認知症ケア加算 身体拘束算定率
(『最新医療経営PHASE3』2024年9月号)

結論

身体拘束の最小化へ
スタッフの行動変容に2024 年度改定を活かそう

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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