ケーススタディから考える診療報酬
第23回
認知症ケア加算の
身体拘束割合で変わる収入に注目

2024年度診療報酬改定の疑義解釈が少しずつ出され、6月施行に向けて院内で業務調整が行われていると思います。改正となると「リハビリテーション・口腔・栄養連携体制加算」など新しい加算に注目が集まりやすいものですが、現行制度の変更にも注意が必要です。今回は、医療機関ごとの、制度変化への対応により収入に差が生じる「認知症ケア加算」に注目します。

ケース:師長さんの涙の訴え

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

東京都内へのアクセスが良い、関東にある総合病院(急性期一般入院料1、HCU、SCUあり)のお話です。
この病院は看護師の離職率が高めであることが課題であり、常に管理職が様式9とにらめっこをしながら入院料1を維持しているというのが現状です。

ある日、この病院の経営会議で、改定による認知症ケア加算に関する収入変化が示されました。何と示された結果は、身体拘束割合が病院全体で50%前後であるこの病院は2022年度よりも収入が下がるという事実。理事長先生は怒り心頭です。
「身体拘束割合は高いと言い続けていたはず。改善しなかった結果がこの数値に表れているじゃないか」と大きな声で看護部門に対して叱責したのでした。すると、ある病棟師長さんが立ち上がり発言しました。

師長「こんなに人員がギリギリの状態で身体拘束をしないなんて、医療事故が起こったらどうするんですか。何でもかんでも看護師に業務を押しつけられる状況は変わっていないので、疲労感は増すばかりです。職場はギスギスしていますし、退職が多いことを理事長先生も知っていますよね。たとえば、身体拘束をせずにいたことで点滴を抜いたら大きな声で叱責する医師がいる病院なんですよ。身体拘束を減らすには、看護師だけでなく病院全体の協力が必要です。こうした環境を変えられないのに『身体拘束割合だけを変えろ』なんて、現場に無茶を言わないでください。仕方がない状況をわかってほしい」

涙ながらに訴えた看護師長さんに、理事長先生は返す言葉がないのでした。

こちらのケース、どのような感想を持ちましたか。師長さんの悲痛な叫びに胸が痛くなりました。

さて、2024年度診療報酬改定で認知症ケア加算は点数がそれぞれ上がりましたが、身体拘束を行った際の減算の割合が大きくなりました(表1)。この影響により、たとえば14日間入院の場合、現行と比べた加算別の収入差は次のようになりました。

◦加算1:拘束なしなら₊2800円だが、拘束すると▲3360円
◦加算2:拘束なしなら₊1680円だが、拘束すると▲2100円
◦加算3:拘束なしなら₊560円だが、拘束すると▲840円

表1 認知症ケア加算新旧点数比較

*2024年2月14日中医協資料(答申)より筆者作成

このように、いずれも拘束すると減収となり、その幅は増収額よりも大きくなります。また、身体拘束の割合から考えると、在院日数の構成にもよりますが、おおよそ、病院全体で4割を超えると収入が下がる計算になります(表2)。

表2 在院日数10日の場合の加算×身体拘束割合別収入シミュレーション

*2024年2月14日中医協資料(答申)より筆者作成

稿でもたびたび紹介しているNDB(ナショナルデータベース:レセプト情報の集計)によると、認知症ケア加算における身体拘束割合の全国平均は約3割です。よって、全国平均以下であれば収入は現行より確実に上がることになりますが、本ケースのように、ケアにかかわる職員の理解・協力体制が院内で不足していると改善には結びつきません。

今回の改定は、医療・看護の質がさらに問われるものだと感じています。医療・看護の質を高めていくということは、そこで働く人材の質を高めていくことにもつながるはずです。

身体拘束を最小化するための取り組みを行うことが入院料の通則に定められることになったことを踏まえ、自院における認知症ケア加算の身体拘束割合を引き下げるための抜本的な見直しを行っていきましょう。
(『最新医療経営PHASE3』2024年6月号)

結論

2024年度改定で認知症ケア加算は身体拘束4割超で減収!
病棟任せではない環境づくりを

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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