ケーススタディから考える診療報酬
第22回
改定で業務フローを変えないと
〜DPC対象病院の変更

2024年度診療報酬改定の告示・通知が3月5日に出されました。前回改定に比べて情報量が1.5倍を超えているだけあって、業務フローの変更が多々求められる変更がいくつも盛り込まれており、今から「どうしよう……」と頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。今回は、DPC対象病院をはじめとしたデータ提出加算を届け出ている病院にとって必須入力となったデータについておさえていきたいと思います。

ケース:誰が何を担当する?

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

ある200床未満のケアミックス病院(急性期一般入院料算定のDPC対象病院)のお話です。
2024年度診療報酬改定の告示・通知が出された後に筆者がこの病院を訪問すると、医療安全を担当する看護師Aさんと、診療情報管理士Bさんの間で火花が散っていました。

Aさん「上村さん、DPCデータとして転棟・転落の件数などを入力しなければならなくなったって本当ですか」

どうやら、告示・通知で明らかになった様式1をはじめとするDPCデータ(データ提出加算を算定している病院が国に提出している診療情報の全国統一データ)に「医療の質指標(3データ9指標、図表参考)」と呼ばれる情報の入力が機能評価係数IIとして評価されることについて、動揺を隠せない様子です。入力されていないとDPC対象病院としての収入に直結する反面、忙しい臨床現場にかかわる情報を必要とするため「大変だ」と頭を抱えているのです。誰かがデータを蓄積していく必要がありますが、入力担当者は各病院に委ねられています。

Bさん「データのことだから、診療情報管理室ですべての新しいデータを入力してくれといわれていて困っているのです」

診療情報管理士Bさんは、これまでもデータとして必須の項目のうち、各専門職に関係するものはそれぞれの部門に振り分けて「入力のお願い」をしてきたのですが、忙しさを理由に「カルテに入力されているから」と診療情報管理室に丸投げされてきた経緯を踏まえ、思い切って今回の件を看護部門に相談したのでした。

Aさん「これまでもやってきてもらったのですから、同じように対応してもらわないと困ります。ただでさえ私たち看護部門も仕事が増えてきたのですから、これ以上仕事が増えてしまうと、患者さんに悪影響が出ます」

Aさんの強い口調にBさんはただうつむき「ハイ……」と答えるのみでした。

図表 医療の質指標に係る項目の新設

[耐性評価指数(医療の質向上に向けた取り組み)においてデータ提出の評価対象となる項目]
項目名 ファイル 見直しの内容
【新】転倒・転落件数(※) 様式1 入棟中に発生した転倒・転落の発生件数を入力する。
様式3 入院中に発生した転倒・転落の発生件数を入力する。
【新】インシデント影響度分類レベル3b以上の転倒・転落件数(※) 様式1 入棟中に発生したインシデント影響度分類レベル3b以上の転倒・転落の発生件数を入力する。
様式3 入院中に発生したインシデント影響度分類レベル3b以上の転倒・転落の発生件数を入力する。
【新】d2以上の褥瘡(※) 様式1 入棟時及び退棟時の評価に加え、入棟中の褥瘡の最大深度を入力する。
様式3 入院中に新規にd2(真皮までの損傷)以上の褥瘡が発生した患者数を入力する。
【新】予防的抗菌薬投与 様式1 全身麻酔を伴う手術の場合に、予防的抗菌薬投与の有無及び時間を入力する。
【新】入院早期の栄養アセスメント 様式1 入院後48時間以内の栄養アセスメントの実施の有無を入力する。
【新】身体的拘束 様式1 身体的拘束の実施日数を入力する。

【新】:新規追加項目
(※)様式1または様式3いずれかの入力で評価する。

こちらのケース、どのような感想を持たれましたか。人材確保が重視されている2024年度改定で、医療の質向上のためとはいえ、業務の負荷が増える改定内容に困惑している声を多く耳にします。
DPCデータにかかわる改定については今回のケースのように、事務方が主に対応してきた病院が少なくないと思います。事務方が担当と思われる部署に依頼して入力方法を相談するというパターンも散見されます。今次改定で追加される項目はどの部門が入力しても良いと思われるものばかり。部署や職種を超えて「入力漏れやミスを防ぐにはどのような業務フローにデータ入力を盛り込むか」を考える必要がありそうです。

改定は6月に施行されるため、6月算定開始に向けた届出準備(届出期間5月2日~6月3日)、算定開始(6月~)、初回請求(7月上旬)、定期報告(8月)、施設基準関係の経過措置(主に9月)、改定後初めてのDPCデータ提出(10月)……と、診療情報管理室や医事課といった事務方は忙しい時期が続きます。今次改定にスムーズに移行するためには、特定の部署に負担が偏らないようにする配慮が必要だと考えます。
データ入力は電子カルテ等のシステムとしてもサポートされる可能性がありますので、新制度対応システムがどのような仕様になるのか、なるべく早く情報を入手し、加えて実際の業務フローの決定をされてはいかがでしょう。

なお、6月の新制度施行前までには業務の効率化・適正化も併せて行っていくことで、改定による業務負荷を最小限にする工夫にもご留意いただきたいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2024年5月号)

結論

2024年度改正ではあらゆる部署の業務が変わる!
業務負荷の偏りを防止しよう

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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