ケーススタディから考える診療報酬
第35回
地域包括医療病棟を考える
全国的に、地域包括医療病棟の届出が増えてきました。2026年度診療報酬改定を目前に、急性期一般入院料を継続することができるのか、それとも、他の入院料を組み合せることで病院全体の収入を上げることを検討したほうが良いのか、具体的な検討を行う病院も増えてきています。26年度改定でも、地域包括医療病棟は政策誘導の意図を含めてさらなる改正が行われると筆者は予想しています。今回は、とある病院で行った地域包括医療病棟に向けたシミュレーション値を紹介します。
ケース:地域包括医療病棟は現実的な選択になる?
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
太平洋沿いにあるDPC対象A病院のお話です。
急性期病院(入院料1)としてDPC対象病院であり続けたいと考えている院長先生と、病院を取り巻く環境を考えると現在の3つの病棟すべてを急性期病棟として維持し続けることは現実的ではないと考える経営企画室側で、終わりが見えない議論が続いていました。そこで筆者に「中長期的に病棟再編を検討するための材料が欲しい」とデータ分析依頼がありました。
A病院の在院日数はとても良い状態とは言えません。効率性係数は全国平均をやや下回る状態で、改善に努めてはいますが、特に整形疾患の在院日数の適正化は現状、難しいと感じています。しかし、「急性期の病院でありたい」という院長先生の強い意思を受け、まずは地域包括医療病棟について検討することになりました。
表は、A病院における疾患別の1日当たり平均包括点数と地域包括医療病棟の日当点3050点との差を表したものです。1日当たり包括点数は、そもそも、設定されている期間I~IIIの点数設計が低ければ低くなり、在院日数が長くなれば長くなるほど平均した点数は下がります。これを見ると、軒並み整形疾患の点数が地域包括医療病棟の点数よりも低いことがわかります。
A院長「地域包括医療病棟は地域包括ケア病棟と異なり、リハビリも出来高で算定できるのですね。看護配置も10対1になることで様式9に頭を悩ませることも少なくなるかもしれない。何より当該病棟が急性期扱いであると、うちには今後必要となる入院料かもしれませんね」
院長先生の変化に、経営企画室の皆さんはほっと胸をなでおろすとともに「数字で訴えることのインパクトは大きい」と痛感されたとのことでした。
表 A病院における疾患別1日当たり平均包括点数延べ在院の多い疾患TOP10
(弊社が保有する複数病院データを加工して示しています)
MDC | 1日当たり 平均包括点数(A) ※医療機関別係数1.4 |
地域包括医療病棟の3,050点(B)との差 ※A-B |
|
040080 | 肺炎等 | 3,635 | 585 |
160800 | 股関節・大腿近位の骨折 | 2,892 | -158 |
040081 | 誤嚥性肺炎 | 3,215 | 165 |
010060 | 脳梗塞 | 3,698 | 648 |
050130 | 心不全 | 3,494 | 444 |
110310 | 腎臓又は尿路の感染症 | 3,378 | 328 |
060340 | 胆管(肝内外)結石、胆管炎 | 3,670 | 620 |
070343 | 脊柱管狭窄(脊椎症を含む。) | 2,917 | -133 |
060210 | ヘルニアの記載のない腸閉塞 | 3,713 | 663 |
160690 | 胸椎、腰椎以下骨折損傷 | 2,989 | -61 |
病床機能に対する強いこだわりを持つ医療機関は少なくなってきているものの、新しい入院料の検討には二の足を踏む組織も多いのではないでしょうか。しかし、この目まぐるしく変わる環境変化に対応して良質な経営を維持していくためには、2年に1度改定される診療報酬への適切な対応は必須であると考えます。
正しく検討するためには、今回のケースにあるように、数字で話をすることをお勧めします。優秀な人材が集まる医療機関ですが、具体的に計算をしてみると脳内シミュレーションとは異なる結果が示されたことで、「そんなに自分の病院に大きな影響があるのか」という声をいただくことも少なくありません。
特に、高齢者で整形疾患の患者が多く集まる病院では、ケースと同じように整形疾患の包括点数が低いことを踏まえて「具体的な病棟再編の検討が進んでいる」という話をよく耳にします。
入院料の再編は実績を蓄積する期間が必要になるなど、すぐに行えるものではありません。26年度改定ではさらに改定が行われると思われる同入院料について、今から注目し、自院の可能性について計算されてはいかがでしょうか。(『最新医療経営PHASE3』2025年5月号)
結論
広い視野で病棟再編を検討すべき
数字を示し収入の影響を
確認しながら計画的に行おう
【地域包括医療病棟の制度設計について(抜粋)】
地域包括医療病棟 | |
病棟趣旨 | 高齢者急性期治療を主な対象患者として、 治すと共に支える医療(リハ等)を提供し、早期の在宅復帰を目指す |
点数 | 3,050点 |
出来高で算定 出来るもの |
初期加算等・リハビリ・手術・認知症ケア加算・摂食機能療法・ リハ口腔栄養連携加算(80点)・入退院関連等 |
看護配置 | 10対1以上 (7割以上看護師) |
看護必要度 |
・A2点andB3点以上 or A3点以上 or C1点以上:15%以上(必要度II) ・入棟初日B3点以上:50%以上 |
在院日数 | 平均在院日数21日以内(最大90日) |
救急医療体制 |
24時間救急搬送を受けられる体制 画像検査、血液学的検査等の24時間体制 救急医療管理加算による評価 |
救急実績 |
緊急入院割合:直接入棟15%以上 ※救急患者搬送量算定患者含む |
リハビリ |
PT,OT又はST2名以上の配置/ ADL実績要件(ADL低下5%未満) |
栄養 | 専任常勤の管理栄養士1名以上 |
院内転棟割合 | 同一医療機関院内 一般病棟からの転棟割合5%未満 |
在宅復帰率 | 80%以上 (分子に回リハ病棟等への退院含む) |
その他 | データ提出及び入退院支援加算1、 脳リハ、運動器リハの届出をしていること |
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立