Dr.相澤の医事放談
第56回
「構想」「計画」をあるべき順序に定め
医療にとどまらない議論を求める

日本病院会は10月8日、「『新たな地域医療構想』に向けた意見書」を福岡資麿・厚生労働大臣に提出した。これまでの地域医療構想のあり方について会内で議論を重ねたものだというが、その骨子はこれまで、本稿で相澤孝夫先生が訴えてきたことと通底する。意見書の概要やその背景にある問題点を語ってもらう。

日病内で議論を交わし「意見書」をまとめる

日本病院会では、10月8日に「『新たな地域医療構想』に向けた意見書」をまとめ、福岡資麿・厚生労働大臣に申し入れました。これまでは、医療機能の分化を目的として高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分に病院を区分けしましたが、単なる数合わせにとどまり、効率的な医療提供体制の確保にはつながらなかったことや、1985年に策定された二次医療圏は人口密度や年齢、地域の道路事情や通信インフラなどを考え合わせると実態に即していないことなどが問題意識としてありました。そこで会内で議論を重ねたわけです。
主な内容は、①現状把握に基づく将来への視点、②医療圏について、③病院の医療機能、④財政的基盤の整備と援助等、⑤法体系の整備、⑥最後に―――です。

「『計画』のなかに『構想』」は位置づけとして不自然

今回はまず、⑤、⑥を中心にお話しします。なぜなら、「初めにどジョンを描き、示すべき」とこの意見書でも訴えており、それに該当するのが⑤、⑥だからです。

⑤では、「諸処の核となるべく、法体系の整備が必要と考える」と述べ、続けて「法律の建付けは現在、医療法第30条の4に医療計画の項があり、そのなかに地域医療構想が記載されている。しかし、本来的に、構想があっての計画であるべきであり順序が逆ではないか」と主張しています。
国にしても企業にしても、運営にあたっては初めにミッションや方針を定めて具体化したビジョンを描き、実現に向けた計画に落とし込んでいくという手順が基本的姿勢のはず。ところが医療政策の場合は逆で、「医療計画」が先でそのなかに「地域医療構想」というピジョンがあるのです。これでは、物事がうまくいくはずはありません。
これまでの地域医療構想は、病床機能ごとに病床数を決めることを「地域医療構想」という名の下で行われてきましたが、これは「構想」ではなく「計画」レベルの話です。一部で論じられているように、地域医療構想の目的が仮に病床規制だとしても、構想を描いてその達成のために病床規制をこのように進めていくという順序があるべきです。
そこで提言では、根本的に法律を変えるところまでさかのぼるべきだと訴えているわけで、「まずはビジョンを描こう」なのです。

構想名に「介護」の文言を挿入すべきと訴えた理由

⑥では「地域医療構想」という名称そのものの変更を求め、次のように述べています。
「『新たな地域医療構想』は介護との連携等も含める流れとなっていることから、名称の見直しが必要ではないか。例えば『地域における医療及び介護の連携に関する構想』など、より内容を体現する名称を考えるべきではないか」
そもそも、高齢者がこれだけ増えてくれば、地域医療を考えるうえでは介護は切っても切れない関係です。介護から見ても同じように医療は不可欠な構成要素でしょう。「医療・介護の複合的支援に対する需要はますます増え、提供のあり方についての総合的ビジョンを示すべきだ」との問題意識があるのです。介護は「連携相手」としてオマケとして扱うには、大きすぎる課題なのです。
①では、さらに踏み込んで「2040年もしくはそれ以降の地域における医療提供体制を位置づける際には、『医療・介護』のみならず、『福祉ひいては生活』をどう守っていくかの視点も必要である」との見方を提示しています。
すでに高齢者医療の現場では、退院後に「どこに住むか」「どうやって住むか」は大きな課題です。生活インフラがあって、そこに対してどういう医療を提供すべきなのかという視点が欠かせません。

このように考えていくとこの「構想」は、厚生労働省医政局のなかで完結できるものではないこともわかります。医政局の立場で考えれば、介護は「連携相手」以上の青写真は描きようがありません。診療報酬は保険局の担当ですが、「介護施設からの患者を受け入れたら算定できる加算」を用意するのがせいぜい。逆も同じで、介護行政を司る老健局でも「医療とはしっかり連携する」という視野にとどまります。
本来ならば、地域全体のビジョンのなかで一人の人間をどう支えていくのか、そのためにはどのような体制が必要なのかを描くべきで、それを担うのはやはり「国」です。
意見書は、提出先を福岡厚労大臣としていますが、あくまで「国レベル」での議論を求めているのです。(『最新医療経営PHASE3』2024年12月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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