ケーススタディから考える診療報酬
第18回
栄養部門の活躍を
後押しできる病院経営

今回の診療報酬改定の議論のなかで、社会保障審議会(社保審)や中央社会保険医療協議会(中医協)で入院時食事療養費に関する具体的な改定数値が検討されています。30年ほど前から変わらない設定に対し、人件費高騰や物価高の影響から多くの医療機関で給食部門が赤字であることは周知の事実と認識していたので、議論の進展に「やっと」の思いの経営者は少なくないと思います。一方、給食部門として赤字を補えるよう限られた人員で入院・外来での栄養指導など収入につなげられる改善行動をとってきた管理栄養士が多くいらっしゃると思います。今回は、そんな管理栄養士の声に耳を傾けていきましょう。

ケース:管理栄養士の病棟常駐はいいけれど……

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

関東圏北部にある200床ほどのケアミックス病院(急性期一般入院料1、回復期リハビリテーション病棟入院料1、地域包括ケア病棟入院料1、療養病棟入院基本料1)のお話。この病院は同法人の介護老人福祉施設と隣接し、この地の急性期から回復期、慢性期・在宅までを担う機能を持つ医療機関として、多職種が日々、切磋琢磨しています。そうした専門職のなかでも「群を抜いて大切にされていない」と憤るのは、管理栄養士の皆さん(常勤換算3.5人)です。
ある日、筆者による改定内容に関する研修会の後、管理栄養士さんが話がしたいと来られました。

栄養士「また私たちの仕事が増えるのでしょうか……」

この病院の経営者は給食・栄養部門が赤字であることを理由に、管理栄養士の新規採用を絞ってきました。ところが、ここ数回の診療報酬・介護報酬の改定で栄養管理の重要性から管理栄養士の配置基準を求める入院料やケア関連の加算が増えたことで、経営者から求められる部門としての売上目標か上がり、頭を抱えているとのこと。
その栄養士はこう訴えてきました。

「私たちは“非採算部門”と言われ、必要と訴えてもなかなか願いが叶いません」

栄養士の業務は多岐にわたります。この病院では給食システムと電子カルテが接続していないので、食札の確認ひとつとっても時間がかかるので、その間は栄養指導などの収入に直結する業務は行えません。また、給食は委託ですが、管理や献立づくり(入院患者だけではなく職員食堂も含む)も行っています。

病棟配置のしわ寄せもあります。2021年度介護報酬改定で法人内の介護老人福祉施設に管理栄養士の配置が必要になった(栄養マネジメント強化加算の新設)ため、病院から栄養士を0.5人分出さなければならず、人員が減ってしまいました。22年度診療報酬改定で回リハの施設基準に管理栄養士の病棟配置が必要となったことも痛手です。回リハ病棟に管理栄養士を配置することはできたものの、実際に栄養指導を積極的に行えているかというと、リハビリが優先されるため時間の調整がうまくいかず、残念ながらできていないというのです。

栄養士「栄養管理は患者さんのスムーズな入退院に欠かせないことは私たちが一番理解しています。志を持ち、当部門としてできる限りのことはしてきましたが、今回の改定議論を受けても経営者は『求人しても来ない』『雇うにもお金がかかるが、指導料とかしっかり算定できているのか』と、栄養士を増やすことには消極的です。どうしたら良いでしょう」

こちらのケース、どのような感想を持たれたでしょうか。数回前の改定から栄養管理の重要性が指摘されており、それを見越して管理栄養士を増員する医療機関も増えてきたように思いますが、不採算であることを理由に、人員を必要以上に制限している医療機関も少なくないようです。

今回、改定における中央社会保険医療協議会の資料から「22年度改正で回リハ1に管理栄養士の配置が要件化〔専任常勤1人以上〕されたが、栄養指導を行っていない病棟が2割ある」ということが示されました(図)。
この資料について、回リハを有する病院の皆さんとお話しすると、さまざまなご意見が聞かれます。
今回のケースのように「本来、病院の管理栄養士が行う業務なのかどうか」ということを議論したほうがいいと思われる病院もあります。

次回改定の目玉として「リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進」が挙がっており、たとえば入院時支援加算の必須項目に「栄養の評価」が検討されているなど、栄養管理の重要性はさらに高まる可能性は高いと考えます。
24年度改定を前に、まずは院内の管理栄養士業務の内容を見直すことで本当に必要な人員が配置されているかどうか、その人員が病院経営に貢献できるような環境が整っているか、検討されてみてはいかがでしょうか。(『最新医療経営PHASE3』2024年1月号)

結論

医療専門職の必要性を理解し
特性が十分に活かされる
環境づくりが経営陣の役割

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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