ケーススタディから考える診療報酬
第17回
看護必要度改定の議論を抑えよ
2025年の地域包括ケアシステム確立に向け、急性期一般入院料と地域包括ケア病棟それぞれが受け取るべき患者像が見直されるという話が2024年度診療報酬改定の議論のなか進んでいます。特に、今後増加が予想される高齢者の軽症から中等症の救急搬送患者の受け入れについて、地域包括ケア病棟(以下、地ケア)で直接受け取るべきではないかという方向性に危機感を抱いている病院も多いのではないでしょうか。今回は、24年度改定の議論から、必要な行動変容に対して危機感を抱く現場に対し、変化をとらえて行動することが億劫になってしまっている経営層の事例を紹介します。
ケース:今までだましだまし基準を超えてきたが……
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
日本の南にある急性期入院料1と地域包括ケア病棟を有する300床ほどのケアミックスX病院のお話です。高齢化が顕著に進んでおり、手術症例が年々減少していることと、退院支援困難症例が増えていることで在院日数の適正化が難しいケースが多いことが悩みの種。改定のたびに急性期の評価としての色合いが濃くなる看護必要度の重症度割合ですが、X病院では、基準をギリギリクリアしている状態が続いています。
10月までに中医協で行われた改定に関する議論のうち、一般病棟用の看護必要度に関する情報がX病院の経営会議で共有されました。
【項目別の視点】
A項目:注射薬剤3種類以上について薬剤と評価方法の見直しの可能性、重度褥瘡処置の評価見直しの可能性(削除の方向)
B項目:ADL改善度合いの評価や認知症・せん妄などの評価方法の見直しの可能性
C項目:評価される術式と日数が見直される可能性
【重症基準の見直しの視点】
- 高齢者の緊急に入院を必要とする状態は軽症と中等症が多く医療資源投入量が少ないため、A項目の評価として適切でないことの問題提起あり→地ケアの改定の行方を踏まえた議論が必要
- B項目の評価そのものが急性期(特に7対1)の評価に適さないため基準からB項目が外される可能性(ただし評価としては残す?)→B項目が含まれる基準①「A項目2点以上かつB項目3点以上」が外される可能性あり?
特に、最後にお伝えした「基準1が外される可能性」はX病院に大きな影響を与えると考え、シミュレーションが行われました(下表)。
外科系疾患はさほど大きなマイナスがないのに対し、内科系は顕著に重症度割合が下がる結果に、どうともコメントできない経営層の皆さまでした。
院長先生「でも、こうなるとは限らない。他の病院もきっと同じような結果になると思う。評価の基準が変われば重症度割合の入院料ごとの基準も変わるはずだから、きっと今回も大丈夫じゃないかな……」
この院長先生の言葉に、X病院の皆さんは何ともいえない表情になるのでした。
今回のケース、どのような感想を持ちましたか。執筆時点で11月が目前であることを踏まえると、これまでの改定議論から大きく論点が変わるとは考えにくいです。
このケースで院長も指摘しているように、評価基準が変われば重症度割合の入院料ごとの基準も変わることは必然で、データ分析に基づいて変更されるために大きく基準が下がる可能性も低いと言えます。
ならば、基本路線は「主に7対1の病床を政策誘導的に減らしていくため急性期としての評価がさらに精査される」と想定すべきで、「A2点以上かつB3点以上」に頼りすぎず、重症度割合を確保する方法を考えるのが妥当でしょう。
■在院日数×基準別の割合の推移
図は、ケースで使用した同じデータを用いて作成した基準①〜③別の割合を在院日数の経過とともに追ったもの。今までは基準①があったために入院から5日目までの重症度割合は高く、在院日数が長くなってもADLの低い患者の重症度割合は高くなることもありました。この基準がなくなるということは、在院日数の適切なコントロールがさらに重要になるということです。少子高齢化で、積極的に手術症例を集患できる地域は限られるため、ベッドコントロールが大きな課題になると考えられます。
今までよりも多くの患者を受け入れなければ病床稼働は下がることが想像でき、急性期として病床数が適切かを考える必要が出てくる病院もあるでしょう。具体的には、外科症例より内科症例の入退院支援を適正化していくために、地域の医療機関との連携強化が必要となる病院は多いと考えます。
基準①の行方の議論だけでなくA項目とC項目の改定議論を踏まえても、「急性期たるマネジメント」は避けて通れません。シミュレーションをしつつ、看護必要度から考えるマネジメントの課題を検討してみませんか。
(『最新医療経営PHASE3』2023年12月号)
結論
必要度は病院の機能分化と相関
「今後もクリアし続ける」ために
常に必要な変化を考えよう
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立