ケーススタディから考える診療報酬
第16回
機能分化にどう対応する
2025年の地域包括ケアシステム確立に向け、急性期一般入院料と地域包括ケア病棟それぞれが受け取るべき患者像が見直されるという話が2024年度診療報酬改定の議論のなか進んでいます。特に、今後増加が予想される高齢者の軽症から中等症の救急搬送患者の受け入れについて、地域包括ケア病棟(以下、地ケア)で直接受け取るべきではないかという方向性に危機感を抱いている病院も多いのではないでしょうか。今回は、24年度改定の議論から、必要な行動変容に対して危機感を抱く現場に対し、変化をとらえて行動することが億劫になってしまっている経営層の事例を紹介します。
ケース:地ケア病棟機能の変化でスタッフのレベルが……
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
8月10日に開かれた第5回中医協入院・外来医療等の調査・評価分科会のなかで、急性期病棟における重症度、医療・看護必要度の評価に関する議論と地域包括ケア病棟議論が行われました。そのなかで、
- 高齢者は今後も増加していく
- 救急搬送も高齢者だけが増え、しかも軽症と中等症が増えている
- 急性期で高齢者の救急搬送を受け続けていくのは受け入れと出口問題があり、その特性から限界がある
といったことが示されたことに加えて、
- 看護必要度として評価されている5歳以上の「肺炎、誤嚥性肺炎、尿路感染症、圧迫骨折」の患者は本当に看護必要度における重症患者割合に含めて良いのだろうか
という疑問が呈されました。
今後、具体的な改定内容としてどこまで反映されるのかは現時点で未確定ではありますが、病院の機能分化がますます加速していく方向性は見えたと思います。
日本海側の某地方都市にある200床未満のケアミックス病院(急性期病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟)で行われた経営会議でこの話題が共有されると看護部長が叫びました。
「地域包括ケア病棟(地ケア)に救急搬送患者を受け入れろというのですか。今でも疲弊感が強く『満床に患者を入れられない』と現場からの訴えがあるのに、これ以上忙しくしろと……。正直、地ケアの看護師のレベルが足りないから、こんなことはできるように思えないのです」
この言葉に、各病棟の看護師長は顔を見合わせるのでした。
筆者の持論は、いろいろな機能を担う必要がある地ケアは、十分な経験とスキルを有する看護師を配置する、またはそのような教育環境を整える必要があると考えています。このことは看護部長にもたびたび助言しており、人事異動や教育体制の再整備を提案し続けていたのですが、部長は「新型コロナだから」「今は混乱を招くから」と未対応の状態が続いていたのでした。筆者「改定は来年です。十分とは言えませんがまだ時間がありますので改善計画をまず考えませんか」
看護部長は面倒くさそうな表情を変えず、現場の師長さんたちからは「また何も決めず、何も変わらないのか」と、諦めのムードが漂っています。
こちらのケース、どのような感想を持ちましたか。地ケアだけでなく外来看護師の業務改善に向けた取り組みのなかでも、同様に「時代の変化に伴い、外来看護師数を減らし医師事務作業補助者を増やしていきたいが、そもそも、外来看護師の質に課題があり改善できない」と、改善を進めるための抜本的な変化に踏み出せない病院のお話もうかがいます。
最近、目標管理制度について執筆する機会があり、改めて、目標管理についてお客様である医療機関の状況を確認したのですが、目標管理は行っていても形骸化されているところが非常に多い印象を受けました。
設定した目標が達成されずに毎年同じ目標が繰り返されていたり、診療報酬制度が変わっているにもかかわらずそれらが反映されていなかったり、新型コロナウイルス感染症拡大という危機的状態にあっても目標を見直さずに改善計画が頓挫してしまっていたりと、より良い組織づくりをめざして運用している目標管理制度にもかかわらずその機能が果たれていない組織は、想像以上に多い印象です。
今回の診療報酬改定も、改定に向けた議論の内容がタイムリーに厚生労働省のホームページにて公開されています(厚労省ホームページ内『審議会・研究会等』の中央社会保険医療協議会参照)。改定議論を確認することの意味は、すぐに対応が難しい人材の育成や確保のような課題を把握することにあります。以前に比べて改定内容が複雑化しており「概要が明らかになってからすぐに対応をすれば間に合う」という内容ばかりではなくなってきています。診療報酬はじめ世の中の変化が急激に加速している現代で“変化しない”ことは後退と同意です。
「変化できない」と嘆くのではなく、変化し続けなければ健全な経営の実現は困難です。変化に面倒くささは伴うもの。そうであれば、できるかぎり面倒くさいものにならないように、事前に準備を始めていきませんか。
今回のケースが皆様の病院にとって、改善の参考になれば幸いです。(『最新医療経営PHASE3』2023年11月号)
結論
中医協の議論に耳を傾けよ!
人材の育成・確保はすぐにはできない
改善は計画的に
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立