Dr.相澤の医事放談
第40回
病院単位にとどまらず国全体の視野で
地域づくりと医療の役割を考えるべき

相澤孝夫先生はこのたび、日本病院会の会長に再任した。日本の医療は「歴史的転換点」を迎えており、これについて病院はそれぞれで方向性を考えるのではなく、病院という集合体、さらには地域全体に視野を広げ、全体像を描く必要があると訴える。会長職を続投することでそうしたメッセージを一層強く発信する考えだ。

規制の考え方を脇に置き実態に即したビジョンを

このたび、日本病院会会長の再任を拝命しました。医師の働き方改革や地域医療構想、医師偏在など重要な医療政策が進んでいますが、背景には日本社会全体の変容があり、医療もこれを踏まえたあり方が求められています。その意味で、日本の医療全体が歴史的転換点を迎えていると言えるでしょう。ここでいたずらに交代するより、現体制を維持して一丸となって乗り切るべきだろうと考えました。
私の病院も含め、個々の病院では、それぞれ問題を抱えていますが、その解決には病院単独ではなく地域、あるいは日本全体で臨まなければいけないものも多くあり、「これに対応しなければならない」という思いも強くあります。
従来、病院は自身のことだけを考えて医療提供に励んでいれば地域での役割を果たすことにつながりましたが、今や、そのような社会状況ではありません。入院、外来、在宅、予防、救急といった機能を考える際も、個々の病院だけでなく「地域全体でどう対応するか」という視点が求められているのです。

国が明確なビジョンと実行可能な構想をもとにゼロから医療体制を推進するかというと、そうではありません。実際には、今ある病院機能を活用しながら、地域の人たちが安心して暮らせる社会づくりを考えていかなければなりません。
今まで苦労してつくり上げてきた日本独自の“医療資源”があることを、もっと重視すべきです。小規模の病院は、医療政策上は役割が見えにくいかもしれませんが、地域のなかで大事な役割を果たし、存在価値があったからこそ、その地域で存続してきたわけです。時代が変わって求められる役割も変わるかもしれませんが、そうした歴史を活かしながら、どのような役割を果たせば引き続き地域で貢献できるのかを追求し、実践していけば、決して「役割を終えた」ということにはならないはずです。

「かかりつけ医機能」はその1つです。厚生労働省は高齢患者に対応する場合に求める機能として、▽持病(慢性疾患)の継続的な医学管理、▽日常的によくある疾患への幅広い対応、▽入退院時の支援、▽休日・夜間の対応、▽在宅医療、▽介護サービス等との連携――を挙げています。これを果たす医療機関として、複数の医師が在籍し、訪問できる看護師、管理栄養士など医療・介護の専門職が揃い、検診機能も備えている中小病院への期待感も高まってくるでしょう。

「地域」の設定も施策も既存の考えにとらわれない

また「地域」自体も、実態を見据えたうえで描く必要があります。これまでは厚労省が設定した「二次医療圏」が正しいという前提のもと病院機能の整備が進んできました。がん拠点病院、あるいは救命救急センターもそうです。しかし、本当にそれが実態に即した形で医療を提供できているのか、正直、疑問です。人口だけでなく、交通網を利用した際の「時間的距離」も考え合わせる必要があるかもしれません。

市町村単位で考えてはどうかという意見もあります。大都市圏の人口密集地ならともかく、市町村は基本的には介護保険サービスを中心とした日常生活圏を念頭に置いて政策を進めており、ここに病院の体制を押し込むのは少し無理があると私は思っています。私見ですが、「人口100万人」を目安に地域を区切ると、病院の偏在問題も含めていろいろな課題を可視化し、対応しやすいのではないかと考えています。
さらに言えば、「地域」を考えるうえでは医療政策だけの発想を超える視野が求められると思っています。外来機能を考えても、地域全体の政策にもかかわってくることもあります。ある医療機関まで通院するのに「時間がかかりすぎる」という患者さんがたくさんいる地域があるとして、医療政策の枠内で考えるなら「医療機関を整備しなければいけない」という議論に終始するかもしれません。しかし、道路を一本敷けば解決できる、あるいは公共バスを運行すれば不便さは軽減するといったことも考えられます。逆に、特定の疾患をもつ患者さんは決して多くはないけれど「通院しなければならない」というなら医療機関の近くに居を移すことが必要かもしれない。そうなれば住宅政策も絡んできます。多くの地域でこうしたことは検討され、実際に実行されているでしょう。

このように、既存の枠組みを超えた発想が求められているのです。日本病院会の会長としてそのことを引き続き訴えていきたいと思っています。(『最新医療経営PHASE3』2023年7月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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