ケーススタディから考える診療報酬
第11回
入院患者への応対業務

新入職員に業務を伝えていくなかで、「この業務は本当に必要かな」と疑問に思う機会もあると思います。ある病院で、「救急医療管理加算」の算定が伸び悩んでいることに着目したことから、入院時の説明書類の多さ、応対業務の煩雑さを見直すことにつながっていきました。

ケース:入院のハードルを下げて緊急入院を受け入れよう!

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

地域の中核的な総合病院であるA病院のお話です。この病院では、特に緊急入院の受け入れ件数が増えず(救急医療管理加算の算定患者が伸び悩んでいる)、その対策が検討され続けていて、筆者が現場調査に入ることになりました。救急車のお断り理由に「入院患者対応のため」という内容が多かったことから、こんなやりとりから始めました。

筆者「まず、入院までのフローを確認させてください」
救外看護師「フロー……? 緊急入院の場合には、基本的に救急外来の看護師がすべて対応することになっています。その際に必要となる書類はこちらです」

見せていただいたのは、入院案内と書いてある冊子を含めて20種類を超えるものでした。入院費用に関するものからせん妄や身体拘束の必要性などのケアに関する説明、感染対策としての面会制限や洗濯物の授受について、入院案内の誤植に関する用紙までさまざま(紙のサイズもさまざま)あります。

筆者「これをすべて看護師が説明するのですか」
看護師「はい。ひととおり説明することになっています……が、正直『これは読んでおいてください』と端折ることもあります」
筆者「これらの書類はどこが管理していますか」

病院名のみ入っている書類や日付が入っていない書類など、さまざまな書類の様式があったため尋ねたところ、

看護師「管理……。これは感染委員会でこれは院長先生から言われたもので、これは……。ある日突然増えたから、どこだったかな……」

書類一つひとつを減らそうにも、どの部門が管理しているものかわからないために減らしたりまとめたりする対策を検討することができず、何より「減らす」という概念なしに業務が増え続けていった結果であることが判明したのでした。

この後、予定入院の入口となっている入退院センターにヒアリングすると、これらの説明は看護師ではなかったものの、同じように疑問なく行っていたことがわかりました。
それから、緊急時だけでなく、予定入院についての業務効率化につなげるため、入院時の書類整理に着手しました。その結果、タブレット端末を用いた入院説明まで導入されるようになり、職員の拘束時間が大幅減。業務の効率化だけでなく説明内容が統一化されたことで、漏れなく伝えることができるようになりました。
さらに、病院全体として書類の書式統一や業務内容について、一定期間での見直しも決まりました。

こうしてPDCAサイクルが回るようになったことで、「実は、現場では書類が多いと不満が上がっていたのですが『必要だから』と言われてそのままになっていました。改善が進んで本当に良かった」と、職員の満足度も上がったのでした。

こちらのケース、どのような感想を持ちましたかでしょうか。この病院でさらにヒアリングを続けたところ、予定入院の窓口となっている入退院センターでも同様のことが起きていました。つまり、病院全体で「減らす」という考えなしに、ひたすら書類が増え続けていたのです。

確かに、入院時の説明は在院日数の適正化を図るためにも重要ですが、入院時の説明が長くなればなるほど、患者・家族もすべてを把握することが困難となり、その結果、コミュニケーションエラーが生じてしまうことになりかねません。

ここでポイントとなるのは、単に病棟看護師の業務を増やすということではなく、現在行っている業務を見直したうえで新たな業務を提案したことです。
経営支援のために病棟のラウンドにうかがうことがありますが、「これはどうして行っているのか?」と質問したくなる場面が多くあり、「私も要らないと思っているのですが慣例で……」という返事が返ってくることも多々あります。
また、「これは必要だと思っていたのですが必要ないのですか?」と勘違いされていることもあります。

「必要だから説明しないといけない」という考えは理解できますが、相手に「伝わる」ことが目的のはずが、「伝える」ことが目的になってはいないか、注意が必要です。何でも書面にまとめればよいというものではなく、なるべく情報が正しく伝わるための方法を検討すべきです。

また、入院時の書類はいろいろな部署がかかわっているものが多く、個々の現場レベルではなかなか改善しづらくなっていることも、注意しておきたい点です。実際に多くの病院で「入院に関する書類整理をしたいが、どこに話を持っていったら良いのかわからない」という声を耳にしました。「必要と思われる部署に話を持っていったが、十分な検討もないままに却下された」ということも……。

年々、入退院に関する説明が増えていると感じている病院が多いと思いますので、今回のケースのように、PDCAがうまく回る環境づくりを、ぜひお勧めしたいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2023年6月号)

結論

蓄積していく入院関連書類を見直し
業務フロー改善を!

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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