ケーススタディから考える診療報酬
第10回
入退院の意識をどう持たせる?

中央社会保険医療協議会(中医協)では3月15日から、2024年度診療報酬改定に向けた意見交換が開始されています。次回改正は医療・介護・障害福祉サービスのトリプル改定ということもあり、今年はたくさんの情報の中から自院の中長期的な方向性を見出していく年になりそうですね。さて、今回はそんな少子高齢化から現役時代の急減のフェーズに人口動態が変化していく医療の世界で、ますます重要となっていく急性期病棟における入退院支援について、ある病院の取り組み事例を紹介します。

ケース:急性期病棟を巻き込んで大成功!

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

都会から少し離れた300床超の急性期病棟から回復期病棟(地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟)を有するDPC対象病院のお話です。この病院の課題は急性期病棟のベッドコントロール。DPC対象病院における在院日数の適正化の指標である効率性係数が非常に低く、売上が上がりにくい収入構造になっていたのでした。
特に問題視したのは、この病院に新しく入職した看護部長。この看護部長は、前職では回復期病棟がメインである病院に部長として勤務していた経験から、入退院支援については病棟看護師を巻き込んで行うことの重要性を肌で感じていました。

まず看護部長が行ったことは、入退院フローの確認です。すると、入院前・入院時のリスク判定から退院調整に至るまで、すべて入退院センターが主導で行っていることが判明。病棟との分業が行われていることは悪いことではないのですが、入退院に係ることはすべて入退院支援センターが担っていたことで、病棟看護師の入退院に関する知識や意識が非常に低いこともわかりました。
そこで病棟看護師長と話し合いを重ね、入院時に行う看護業務の効率化を検討したうえで「病棟看護師に入退院支援計画書を書いてもらう(場合により入退院支援センターとタスク・シェア)」ことを実行。最初は「私たちは急性期病棟なのに……」とかなり消極的な態度を示していた看護師も少なくなかったり正しくリスク判定が行えなかったりしたのですが、入退院支援センターと看護師長が丁寧に指導を行ったことで、3カ月ほどで病棟看護師の業務として定着するようになりました。

最も大きかった変化は、「患者・家族に対して退院に関する声かけを、病棟看護師が日頃の業務のなかで行えるようになった」ということです。患者・家族に対する心構えが生まれてきたことにより、たとえば、以前は入退院支援センターのみで行っていた介護保険申請の促しを病棟看護師も行うようになりました。それにより、以前に比べてスムーズなケアプラン作成につなげられるようになったとのこと。さらに、病棟看護師から担当医師にも退院に関する声かけが増え、病院全体を巻き込んだ退院支援が行える環境が整ってきました。
看護部長は、「院内の連携は非常によくなってきました。今後の課題は地域との連携です」と話しています。

こちらのケース、どのような感想を持ちましたでしょうか。「うちの病院は高齢者が多く退院先がない」という声を多く聞きますが、よくよくうかがってみると、院内における入退院支援の重要性というものが十分に共有されているとは言い難いことも、決して少なくありません。勉強会などで「入退院支援は大切」と訴えるだけでは、行動変容を促すには弱いと思います。
入退院支援は医療従事者だけでなく、場合によっては患者・家族の行動も変えていかなければならないことも多いはずです。そうなると、日頃から患者・家族と接することの多い病棟看護師を入退院支援に巻き込んだ看護部長の取り組みが良い結果を生んだのは、当然のことと言えます。

ここでポイントとなるのは、単に病棟看護師の業務を増やすということではなく、現在行っている業務を見直したうえで新たな業務を提案したことです。経営支援のために病棟のラウンドにうかがうことがありますが、「これはどうして行っているのか?」と質問したくなる場面が多くあり、「私も要らないと思っているのですが慣例で……」という返事が返ってくることも多々あります。
また、「これは必要だと思っていたのですが必要ないのですか?」と勘違いされていることもあります。

2024年度には診療報酬改定が控えていますが、改定後には、新たな業務が発生せざるを得ないことが多く出てくることと思います。これまで、改定のたびに業務の見直しを行ってこなかった病院は多いと思いますので、今後は「新しい業務を行う前には現在の業務を見直す(効率化を考える)」ことを習慣化させるよう、ぜひお勧めします。
「忙しい業務のなかで見直しの時間までとれない」と思われる方も多いと思いますが、実際には、見直したことによって現場の疲弊感が減少することのほうが重要だと考えます。

*

短期的な視点で「やらなければならないことをやる」だけではなく、中長期的な視点に立ち「みんなが気持ちよく仕事ができる体制を整える」視点は、管理者として重要だと感じたケースを今回は紹介しました。(『最新医療経営PHASE3』2023年5月号)

結論

新しい業務を行う前に今の業務を見直せば
現場の疲弊感は減少する!

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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