Dr.相澤の医事放談
第37回
在宅で暮らす高齢者を支えるのは
地域密着型病院が望ましい

2022年12月に、政府の全世代型社会保障構築会議が報告書をとりまとめた。そのなかで介護分野では、超高齢社会への備えを確かなものとする改革を前進させるという基本方向が示され、「高齢者ができる限り、住み慣れた地域で暮らし続けることができる体制整備」が挙げられた。相澤孝夫先生は、1人の高齢者をチームでみていく仕組みが今こそ必要だと指摘する。

在宅の要介護高齢者は誰がどうみるのか

全世代型社会保障改革は、介護が必要になっても高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるようにしていくことが前提となっています。そのためには、医療や介護だけではなく予防、住まい、生活支援などが包括的に確保される体制をつくっていくという話ですが、どこを切り口にもっていくかが大事なのではないかと思います。

在宅で暮らす健康な高齢者には健康寿命延伸のために、そしてフレイルに陥らないよう健康維持のための予防的かかわりが必要です。認知症になっても暮らし続けられる仕組みづくりとして、介護保険でのサービス内容が検討されていますが、高齢者はどこかの段階で医療が必要になります。
特定健診を受けて改善が必要となれば医療が受け持ちますが、予防段階で医療かどう関与するのか、介護と一緒にどう支えていくのかは現状、明確ではありません。実際、介護の重症化予防に医療機関はあまりかかわっていないと思います。

もう一つは、在宅で暮らしている要介護の高齢者を誰がどうみるのかということです。要介護といっても、人によって必要な支援は異なります。複数の病気を抱えていれば、当然、医療を必要とする割合が高くなります。高齢になれば医療と介護は切り離せず、渾然一体の状況です。1人の高齢者を在宅医療・介護がチームとしてどうかかわっていけばいいのか、青写真はまだ描けていないのではないでしょうか。重要とされている在宅での口腔ケアなども、チームでどう取り組んでいくかがはっきりしないままでは、高齢者が在宅で暮らし続けられるかは疑問です。

在宅では医師、看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士、介護福祉士、ケアマネジャーなど医療・介護の多職種がかかわっています。ただ、役割は職種で決まってしまうことが多く、ケアプランを作成する人は「つくったら自分の仕事はおしまい」となりがちです。医療のことは医療職、生活のことは介護職が担うべきとは思いますが、お互い、自分が専門とするところの視点しかないのです。チームという概念で動くには、リードするリーダーが欠かせませんが、それも仕組みとして決まっていません。

理想は退院後も継続し
病院スタッフが訪問

高齢者が肺炎や骨折などで入院すると、総合機能評価を行います。ここでも多くの職種が介入します。体調が落ち着き、ある程度治療し支える医療を受けて退院すると、その高齢者は入院医療チームから在宅医療チームに引きわたされます。
継続したケアを行うには、情報伝達ツールとしてDXを使うのはいいのですが、あくまでも“便利な一手段”です。根本的なこととして、1人の高齢者をどうやってみんなで支えていくのかについて話し合っているのでしょうか。在宅から入院、そして在宅に戻る際に切れ目のないケアを行うことが、在宅で暮らす高齢者には必要不可欠です。そのためのリーダーとして中心的な役割を果たすのは、地域密着型病院が望ましいと考えています。
地域密着型病院が望ましい理由は、肺炎や心不全、尿路感染症といった高齢者に多い疾患に対応できること。そして疾患だけでなく生活も含めて見守り、支えるための多職種がいるからです。

高齢患者が退院する場合、患者自身の医療的な事情よりも、生活環境のほうが大きな問題となります。地域密着型病院では、在宅での環境を整えるために介護職を含めたチームでかかわるので、「病棟への介護福祉士の配置を診療報酬で評価する」といったことがあってもいいのではないかと思います。
もっと言えば、退院後の在宅でも地域密着型病院のスタッフが継続してみるのが理想です。入退院を繰り返す高齢者からすると、入院と退院のギャップが少なく、医療提供という観点から考えても合理的です。高齢者には退院した後の総合的な医学管理も絶対に必要ですから、住み慣れた地域で暮らし続けるには病院、医療が果たす役割は大きいのです。

全世代型社会保障改革では、地域包括ケアシステムの深化・推進が掲げられていますが、地域包括ケアシステムに病院は組み込まれていません。今後75歳以上、85歳以上の高齢者が急激に増えます。対応するには医療・介護の多職種が揃っている病院をもっと整備すべきだと考えます。(『最新医療経営PHASE3』2023年4月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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