Dr.相澤の医事放談
第36回
コロナ補助金よりも診療報酬への
上乗せで病院経営への支援を

新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが5月8日に、今の「2類相当」から「5類」に移行されることが決まった。相澤孝夫先生は現状から、5類としての扱いが相応しいと指摘。コロナ補助金に頼るのではなく、診療報酬に上乗せすることが物価高への対応には有効だと指摘する。

2類では人員不足による医療ひっ迫が発生

5類への移行について、医療関係者からは慎重論が出ていますが、何が問題なのかが私には正直わかりません。科学的、学術的に感染症の専門家が議論して決めたことであれば、われわれ医療機関はそれに従うまでのことです。このままずっと2類相当であることはなく、いつかは5類に切り替えなければならないのですから、今がそのタイミングだというならいいのではないでしょうか。
「段階的な移行が必要」という指摘を聞きますが、2類と5類しかないのですから、5類に移行するしかありません。それが正しいかどうかは私たちが判断するのではなく、感染症や疫学の専門家がさまざまなデータをもとに、真摯な議論を重ねて決定したことなので、科学的、医学的に正しいというなら、それに沿った対応をしていくしかありません。

新型コロナウイルス感染症はどんどん変異を繰り返しています。2020年当時の最初の新型コナウイルスと現在の新型コロナウイルスは、まったく別のものになっています。
私は以前から早く5類に移行すべきだと言っていましたし、今も5類が相応しいと思っています。死亡率はそれほど高くないし、感染力が強いといっても、若い人はほとんど症状が出ません。

現在、第8波の流行がきており、地元の長野県松本地区では、複数の病院で入院患者にクラスターが発生しています。対応として、4人部屋に陽性の患者さんを集めて管理していますが、それでクラスターが広がるかというと、そのようなことはなく、自然と収束していきます。保健所は感染症病床をもっていない病院に対しても、「その患者さんはあなたの病院で管理してください」と言って隔離しようともしません。2類として厳重な隔離、管理をしなければならない状況が変わったということです。実際、もう2類の扱いではないと思います。

私は感染症の専門家ではないので何も言えませんが、現場の感覚としては季節性インフルエンザとあまり変わらないと考えています。むしろ問題となっているのは、現状では2類なので、職員が感染すると10日間とか休まなければならないことです。
クラスターが発生すると、まったく症状がない人もPCR検査を受けることになり、すると、1人か2人は陽性反応が出ます。そうすると、第1波とのときとは違った意味で人員不足による医療ひっ迫が起こります。入院患者を制限しなければ医療提供体制を維持できないことのほうが、ずっと深刻な問題なのです。

コロナ補助金を廃止し入院基本料に充当すべき

2類から外れると、医療費やワクチン接種などが公費負担から外れるといったことが言われていますが、季節性インフルエンザでは自費負担をしているので、それと同じでいいと思っています。

少しうがった見方になってしまいますが、病床確保料や各種補助金が支払われるので、医療機関にとっては2類のほうが好都合なのかもしれません。コロナ対応をしていた病院にとって、補助金があって助かっていたのは確かです。でも、今のコロナの状況下で本当に必要なのは何かといったら、補助金ではないと思います。私の個人な考えとしては、コロナ補助金は廃止したうえで、その分、3分の1でも4分の1でもいいから診療報酬の入院基本料に上乗せしてもらいたいのです。

光熱費や物価が上がっていて、病院経営は苦しくなっています。他業界では価格に少しずつ転嫁することで対応できますが、医療は公的価格に転嫁できません。物価高の傾向が変わる見込みがないので、24年度診療報酬改定を待たずに臨時で対応してもらうことなども考えています。
たとえば、消費者物価指数に準じた程度の上乗せがなければ、病院経営は真綿で首を絞められるように悪化していってしまうと思います。逆を言うと、本来そうしたところへの手当てをしなければならないのに、それをコロナに対する補助金に充てています。コロナ補助金が打ち切られたときに何も補償がなければ立ち行かなくなります。物価の上昇にキャッシュアウトが増えて非常に経営が大変、あるいは非常に窮屈な状況になっていくと考えています。
以前からずっと言い続けていますが、これは、日本の病院が抱えている根本的な経営問題なのです。(『最新医療経営PHASE3』2023年3月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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