Dr.相澤の医事放談
第35回
医療の集約化、集中化と
適切な分散化を疾病ごとに考える

2024年度からの第8次医療計画を策定するにあたり、「第8次医療計画等に関する検討会」での議論が深まってきた。5疾病についての検討も進められており、がんについては、がん診療連携拠点病院のない「空白の二次医療圏」が議論の遡上に上がった。相澤孝夫先生は、二次医療圏を単位とした考え方に疑問を呈する。

二次医療圏単位でのがん拠点病院整備の失敗

医療計画が定める5疾病のうち、がんについては医療情報を一括して国立がん研究センターで情報収集するようになりました。それによっていろいろな分析とさまざまな対応ができるようになってきています。一方で、最近の議論から、循環器病についても同じようにしようとしている動きがあります。データ分析であればがんと同様に、国立循環器病研究センターが情報を収集し分析すればいい話です。

ここで憂慮するのは、医療情報を集める機能と地域医療をどうしていくのかは分けて考えなければいけないのに、ひとまとめにされてしまうのではないかということです。
がんについては、がん診療連携拠点病院を整備してきましたが、現状をみると機能していないのではないかと思っています。その方法を循環器病でも踏襲することになるかもしれないという心配です。
がん診療連携拠点病院を二次医療圏に1カ所ずつ整備することを進めて空白地帯をなくし、それによって医療の均てん化を図ることをしてきましたが、現状をみると、最初の目論見は崩れてしまっています。そもそも、最初の計画からして間違っていたのではないかと思っています。

がん診療連携拠点病院の整備では、とにかく二次医療圏に必ず1カ所ということで無理をしてつくっきた経緯があります。地域によっては二次医療圏の人口が減少し、隣の医療圏に行くほうが利便性もよく、その医療圏にがん診療にしっかり取り組んでいる病院があれば、患者さんはそちらに行きます。
二次医療圏の人口が2~3万人でがん診療連携拠点病院が1カ所で成り立つかというと、成り立たないわけです。また、がん治療を地域単位でみていくと、きちんと取り組んでいる病院が1つの二次医療圏に集中していたり、一方で、そういった病院がまったくなかったりする二次医療圏もあります。

以前からずっと言っていることですが、二次医療圏が適正であり、その圏域で何かしていこうというならわかりますが、現在の二次医療圏が適正でないなかで何をしてもうまくいかないのではないでしょうか。それから、都道府県ごとといっても、都道府県の人口はバラバラです。少ないところは東京23区の一つの区の人口を下回っているところもあります。ですから、そういうことを考えていったときに、医療提供体制として果たして正しいのかということです。

医療計画というのは恐らく、医療提供体制の検討がメーンだと思うので、それを主眼に考えると、がんでの失敗を繰り返さないようにすることが大事だと思います。
新たなものをつくるかどうかという議論よりは、いかに地域間の連携を強化する、あるいは、もう一度医療圏を見直すということによって適正な医療を提供できるようにしていくということが大事ではないかと思います。

緊急性の高い医療を享受できる仕組みを

第8次医療計画の議論では、がん、心臓、糖尿病と疾病ごとに分けて議論を行うので、結局は、検討会に参加する専門家の個人的な考えに左右されてしまい、肝心の医療提供体制をどうしていくのかという議論はどこかに飛んでしまいます。心血管疾患、脳卒中は、がんと比べると緊急性が高くなります。緊急性の高い医療を国民がしっかりと享受できるようにする仕組みを、医療計画の見直しを機に、もう一度考え直していかなければならないでしょう。

がんでは、拠点病院を強引につくったものの、結局、機能しなかったですし、資源の無駄な投与も起きています。医療でも今後、働き手が少なくなっていくなかでいかに効率化を図っていくかを十分議論したうえで取り組むべきですが、十分な議論をしたかというとできていなかったように思います。どれくらいの人口に、どのくらいの医療資源が必要なのかの確認を先にしておかなければなりません。

先日、ジェット機での患者搬送の勉強会に参加しました。医療資源の乏しい地方と都市部の専門医療機関を結ぶもので、日本に1~2カ所、拠点をつくるといった構想でした。医療の集約化、集中化と適切な分散化を、どういう疾病について患者さんの状況に応じ進めていくかを真剣に考える時期になっていると思います。
以前から言っているように、日本の医療全体の骨組みをどうするかというグランドデザインがやは必要で、国がそれを描けていないことが問題だと考えています。(『最新医療経営PHASE3』2023年2月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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