Dr.相澤の医事放談
第33回
数合わせではなく本質的に
解決が必要な問題が何かを考える
2024年度から実施される「医師の働き方改革」だが、その必要性が現場に伝わっていない、改革が進まない、全容がわからない――といった医療機関は少なくないのではないか。「労働時間を削ればいいという話になっていて、そのために何をすべきなのかが議論されていない」と、相澤孝夫先生は苦言を呈する。
実態と合わない指標では医師偏在は解決しない
医師の数が限られたなかで、この国の医療にかかわる医師の配置をどうしていくのかという問題は、医療提供体制をどうするのかとセットで考えていかなければいけないでしょう。
医師の偏在だけを議論しても何の解決にもなりません。日本病院会の理事会でも医師偏在対策を行ううえで参照とされている医師偏在指標が、現実とあまりに乖離しているとの指摘がありました。二次医療圏ベースで計算をしていますが、二次医療圏が医療提供体制として適切な区域であるということが前提になっているわけで、もともと二次医療圏がおかしいと指摘しているのに、そのおかしなものをベースに計算をしているのですから、当然、実態と合わなくなります。その数値に基づいて医師数を変更することがどれだけ解決につながるのかという疑問を、みなさんが持っているのが現実だと思います。
診療所だったら1人の先生で仕事をしているのだろうし、病院だったら病院の規模によってどれぐらいの人が必要かというのもわかるでしょう。もっと言えば、病院は入院医療が中心なので、ベッド何床に対して医療スタッフ何人がサポートすればいいのかというのも、おおよその計算として出ると思うのですが、それが出ていません。この規模の病院で医療をやっていくとすれば、どういう医師がどれくらい必要なのかをきちん数字として出していかなければ、本当に必要とされる医師数は出てこないでしょう。
医師がまだまだ足りない地域と、それなりに充足している地域があるのは事実ですが、それが医療提供体制にどんな影響を与えているのかということもよく解明されていません。
医師の偏在に関しては、地域の偏在と医療機関の偏在があります。どういう医療機関でどのくらい医師が働いているのかという偏在については、詳しいデータは恐らく出ていないのではないでしょうか。
医師の偏在を解消することで何を解決したいのかを、国は、もう一度ゼロベースで考えていく必要があるのではないかと思います。
病院がどの機能を担うかを地域ではっきりさせる
法律で決められている医師の働き方改革は、現実的な対応をしなければなりません。2024年度から労働時間の上限規制が適用されることから、やらざるを得ない状況です。「働く時間が1860時間超過しているのは論外だから、960時間にする方向にもっていこう」というのが厚生労働省の考え方です。
どういう病院がどんな機能を持たなければならないのかということが全然わかっていないから、地域によって動きはばらばらです。
たとえば、医療を集約化してそこに医師も集約させれば、1人あたりの働く時間は少なくてすむのではないかといった意見もあります。また地域で救急医療を担っている病院は、救急部門をカバーするために大学病院から支援を受けなければ救急体制を維持できません。
多くの病院が大学医局からの派遣に頼っていますが、自院での勤務が本当に勤務時間のすべてになるのかといったことも、詳細な検討はされないまま、時間だけの縛りで動いていると思っています。そうなったときに、医師の働き方改革、先ほど言ったような「その病院はどんな機能を持っていてどういうことをするのが大事なのか、だからこういう医師がこれだけ必要で、そうなると当直もこういう体制が必要だ」といった考え方ができていません。医師の働き方改革で何を解決したいのかというところと、方向性が大きくずれているのが問題の1つです。
もう1つの問題は、実際に働いている時間と自己研さんという時間をどこでどう切り分けるのかということです。いわゆるグレーゾーンがいっぱいあり、超過勤務が相当多いところは黒に近いところまでグレーゾーンにして、「グレーなところは働いている時間ではない」と言うかもしれません。それは、真の問題を解決せずに時間だけを調節することでしかありません。
自分が勤務する医療機関以外のところにお手伝いに行った時間は本人が申告しなければ把握しなくてもいいということになると、本質的に解決しなければならないことは全然、未解決のままです。
これでは、国民も医師も医療機関も幸せな方向に向いていないことになるのではないでしょうか。(『最新医療経営PHASE3』2022年12月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。