Dr.相澤の医事放談
第32回
地域に必要な医療を考えるには
デザインを描けるかが大事

第8次医療計画の議論が行われているなか、二次医療圏のあり方が問われている。地域における医療機関の役割分担を考える際、相澤孝夫先生は、従来からの行政単位ではなく、人口密度や地域事業を考慮した医療提供の必要性を指摘する。

地域に身近な医療は「日常生活圏」が単位

地域の医療機関が役割分担し、いかに地域を守っていくかが重要です。役割分担を考える際、今の日本では二次医療圏という行政単位となっています。医療計画は、二次医療圏のなかで完結するように策定されています。
人口が減少し高齢者も減少する地域もあれば、人口は減るけれど高齢者は増える地域もあり、地域差が生じています。そういった状況で、現在の二次医療圏で医療提供を考えていけばいいのでしょうか。そもそも、医療計画と市町村がつくる介護保険事業計画の整合性が取れていないのが、一番の問題だと言えます。

私は行政単位ではなく、人口密度で医療圏を考えていく必要があると思っています。
介護保険事業計画では、さまざまな調査で「日常生活圏」という単位が使われています。地理的条件、人口、交通事情などを勘案して定められている区域で、国では、概ね30分以内で必要なサービスが提供される区域としています。広さとしては中学校区となっています。
医療重要は人口に応じて発生するので、この圏域にある医療機能を考えます。診療所が担う外来機能と在宅医療機能、もう一つ加えれば、予防医療機能があるといったところでしょう。
高齢者が住み慣れた地域で暮らす圏域であるので、かかりつけ医の役割が重要です。そこには当然ですが、病診連携が絶対必要となります。
地域によっては日常生活圏のなかに診療所がないことも考えられます。その場合は、病院が診療所機能を補完することになります。また、地域包括ケアシステムで地域のなかで診ている高齢者は必ず入院することが出てくるので、入院機能をもった病院は必要です。ただし、中学校区とされる日常生活圏の人口規模は1~2万人程度だと推測すると、患者数からして、病院は経営的に成り立ちません。
では、病院はどれぐらいの圏域に設置すればいいのかというと、移動時間が1時間以内、人口5万人程度の「地域日常圏」に、それほど高度ではない医療を提供する病院が1つあればいいとなりますし、住民の普段の行動が圏域内で完結する人口10万人程度の「地域医療圏」には診療所が担えない、専門性の高い外来機能やMRIなどの検査機器がある病院の設置が必要だとなってきます。
さらに、地域生活圏から移動時間が1時間ほどかかる人口50万人程度を基本とする「広域医療圏」では、高度急性期病院が設置されているという感覚です。

人口密度が高い都市部は規模の適正化と機能集約を

医療提供はこのように、人口と移動時間を考慮するだけでは不十分です。面積が同じ圏域であっても、人口密度や地域の事情で変わってくるからです。
人口密度が低い地域では、病院医療の集約化が必要となります。病院や病床を減らす、あるいは、状況によっては病院から診療所への転換を行い、入院機能は近隣の病院との連携によって補います。
さらに、人口密度が低い地方では病院が一定の患者を確保できないので、圏域を拡大しなければなりません。患者だけでなく、医療従事者も減少しているのに医療提供体制は昔のまま――といった現象が起こっています。
逆に、人口密度が高い地域は、病院を増やす、または1病院当たりのベッド数を増やすなど、規模の適正化と機能の集約化が必要になります。都市部では、圏域当たりの人口規模を大きくしたうえで機能分化を行い、足りない機能は病病連携で補うといった考え方をします。

東京をはじめとした都市部の医療提供の問題点は、移動時間が30分以内で同じような機能をもつ病院がいくつもあることです。地域における医療提供の考え方を整理するためにはデザインを描くことが大事だというのが、私の持論です。それができていれば、この地域にはどんな病院があればいいのかがわかってくると思います。
デザインを描いて解決していく過程を登山にたとえれば、めざす山頂は同じで、どのルートを登るかの違いです。デザインがなければたどり着けないし、頂上についたらどうするかも考えられないでしょう。地域の医療機関が役割分担をして地域を守っていくことが重要であり、この考え方は、都市一部でも地方であっても違いはないはずです。(『最新医療経営PHASE3』2022年11月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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