経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第25回
回復期だけではない!
注目したい急性期のベッドコントロール

DPC/PDPS(診断群分類別包括評価)制度が2003年より全国82の特定機能病院等から開始され今年で19年目となり、急性期病院における平均在院日数は全国的に標準化されていきました。22年度診療報酬改定は、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟での厳しい改定内容が注目されがちですが、今回は、標準化が進む急性期のベッドコントロールにおける改定内容も押さえることで、自院の効率的な病院経営を考える材料にしましょう。

効率的なベッドコントロールが評価されるようになった

DPC制度における点設計方法は、4種類あります。

①最も多い診断群分類に該当するA方式
②入院初期の医療資源投入量が多いB方式
③入院初期の医療資源投入量の少ないC方式
④高額薬剤や手術等に係る診断群分類D方式(いわゆる短期滞在手術等)

このうち、2022年度診療報酬改定では、A方式に関して、入院初期である入院期間Iにあたる点数設計が見直されました。1日当たりの医療資源投入量の平均投入量の115%の点数設計が117%と、+2%されることになったのです(図表1)。つまり、入院初期の医療資源投入量の評価が高くなったことを意味します。

では、期間の設定はどうでしょう。図表2に、最新DPC公開データである20年度における症例数の多いDPCコードTOP10(DPC対象病院に限る)について、期間IIの制度設計とともに示しています。
先の図で示したとおり、制度設計上は「平均在院日数」となっている期間IIですが、たとえば地域包括ケア病棟等の回復期の活用が進む「大腿近位骨折+手術あり」コードは、全国の平均在院日数が「25.09日」に対し、20年度は「23日」、22年度制度は「22日」と大きく剥離があることがわかります。
当該コードにおける20年度制度と22年度制度の変化は図表3です。期間は短くなりましたが、入院初期である期間Iの点数が高くなっています。つまり、効率的な在院日数のコントロールに対する評価が高まったということです。急性期病院における在院日数のコントロールについては「看護必要度」や「DPC対象病院の効率性係数」にも関係するため、自院の急性期病院におけるベッドコントロールの適正化は、制度改定に鑑みてもさらに求められていると言えます。

図表1 DPC支払い方式Aにおける改定概要

左:2018年度診療報酬改定説明の概要(DPC/PDPS)より筆者が抜粋・加工
右:2022年度診療報酬改定の概要入院III(短期滞在手術・DPC/PDPS)より筆者が抜粋・加工

図表2 2020年度DPCコード別件数・平均在院日数・期間II制度設計

2020年度DPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告について、より筆者が加工

図表3 「160800xx01xxxx:股関節・大腿近位の骨折&手術あり」制度変化

特定疾患について転院に分岐が登場

22年度改正では、特定の疾患について他院から転院した場合の分岐が増えました(図表4)。多くの場合、転院した場合の点数が低く設定されています。
たとえば、他院で大腿近位骨折の手術を行った症例が転院した場合は図表5です。入院1日目で約7000円の日当点の差異が生まれていることがわかります。ケアミックス病院に転院する当該症例が、回復期の治療を目的とした転院にもかかわらず、自院の地域包括ケア病棟等よりも一般病棟に転棟したほうが入院料が高いことを理由としたベッドコントロールを行っていた場合、同じことを22年度にしても思うような収入が得られなくなるという制度変化なのです。

図表4 他院からの転院に分岐ができた疾患一覧

2022年度診療報酬改定の概要入院III(短期滞在手術等・DPC/PDPS)より筆者が抜粋・加工

図表5 大腿近位骨折の場合

狭心症+心カテは転院のほうが高得点に

22年度での新分岐となる転院の有無は、ほとんどの場合転院のほうが点数は低くなるのですが、反対に高くなる疾患もあります。それが「狭心症+心カテ」症例です(図表6)。
想定されているのは、心カテが実施できない病院からの転院症例のため、入院初日の点数が高く設定されているものと考えます。この制度変化は「病病連携(病院同士の連携)」の可能性を検討する材料になると考えます。
「狭心症+心カテ」の転院に関しては症例数もさほど多くはないと思いますが、次ページのケースも参考に、改定を病院経営改善のための議論に役立てていただきたいと思います。

図表6 狭心症・慢性虚血性心疾患の場合

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:変化を活かそうとする病院と、そうでない病院

地域密着型ケアミックス病院(急性期病棟と地域包括ケア病棟を保有)のA病院とB病院のお話。ちなみに、どちらの病院でも緊急カテーテルの実施は可能(曜日による)で、院内の退院患者に占める狭心症+心カテ症例数は上位にあります。いずれの病院にも「2022年度制度で転院の有無による分岐ができ、特に狭心症心カテ症例について転院症例の評価が高くなったこと」についてお伝えした後のできごとです。

A病院はコロナ禍で集患に苦労しましたが、徐々に患者数が増えてきています。中長期的な集患対策を考え、近隣の医療機関からはやや遅れをとっているものの、地域医療連携に力を注ぐことにしました。理事長の努力のかいがあり、今年度は若手医師の増員に成功!経営会議へ医師の参加を促した結果、本日も多くの医師が参加しています。

「(狭心症+心カテについて)転院症例の評価が上がるというのは初めて聞きました。私でよければ近隣病院に挨拶に行きましょうか。急性期病棟の稼働を考えてもこの病院には余力があると思いますし、曜日は限定されますが、緊急カテの受け入れ体制もできています」とは、今年度から新しく常勤医となった若手の循環器医師の会議内での発言。実は、今まで事務長だけが近隣のクリニックや消防署へ挨拶周りをしており、地域医療連携として医師が前面に出ていませんでした。この発言で苦虫を噛み潰したような表情の事務長とは反対に、前向きな表情になる理事長をはじめとした他職員の皆様――という構図に事務長はこの雰囲気に飲まれ何も言えなくなり、今では、病院全体で医師をはじめとした医療従事者を巻き込んだ地域医療連携のあり方を考え、実行できるようになっています。

B病院は、コロナ禍でも患者数は十分に確保できていました。やや楽観的な院長と事務長が経営のカギを握っていることもあるのか、「さらに成長するにはどう変革したらいいか」というよりも「どうしたら現状を維持できるか」を考える文化が根深くありました。そうしたなか、改定における転院症例の新分岐について経営会議内にて情報共有が行われました。

「いや~、うちにはこないんじゃない」とは、院長の開口一番。そこで「くるかこないかというよりも、こういう症例があった場合には院内で積極的に受け入れるということを院内で共有されてはいかがですか。心カテができない病院にとっては、この改定内容を把握されていないところが少なくないと思いますので、地域医療連携の1つのネタとして営業にいくのもお勧めです。心カテができない病院にとって、転院先となる選択肢を増やすイメージです」と、筆者から提案しました。すると「うちでは24時間毎日心カテができるわけではないし……」と、何を提案しても気持ちよい返事はありませんでした。

会議後にB病院の職員にこっそり話を聞くと、循環器の医師が積極的に入院患者を受けたがらないことに加えて、院長がその事実を把握しているにもかかわらず、改善に向け行動を起こすことができていないと判明。事務長も「私は臨床についてコメントできないから、どうにか院長が動いてほしいんだけど難しいね……」と、状況は把握しているが改善行動ができずに現在に至っています。

改定をきっかけに院内のあり方を見直すことができた病院と、そうでない病院がありました。いろいろな事情はあれど、行動を変えないとよりよい組織は創造できません。皆様の病院では、改定情報に対してどのような反応がありますか。(『最新医療経営PHASE3』2022年7月号)

まとめ

  • 2022年度診療報酬改定における急性期(DPC)が注目すべき改定内容は、「入院期間Iの点数設定が高くなった」「転院の有無による分岐ができた」という2点
  • つまり、「効率的な在院日数のコントロールに対する評価が上がっている」ことであり、急性期病院における在院日数は早期の退院支援が重要
  • 「狭心症+心カテ」について転院症例の点数が高く設定されることに。病病連携の議論の材料におススメ!
上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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