Dr.相澤の医事放談
第28回
かかりつけ医、外来機能など
超高齢社会に備えた役割分担を
2024年度からは第8次医療計画がスタートする。前編では新型コロナウイルス感染症によって露呈した、地域の感染症対策をはじめとした地域医療での検討事項について、相澤孝夫先生に語っていただいた。後編では今後の超高齢社会を支える医療体制についての提言を紹介する。
5疾病5事業は現実に対応できていない
──前編では、現状の医療計画の問題点として、圏域の設定や地域での「病院機能」分化、連携について指摘いただきました。
医療計画の問題点としてもう一つ、5疾病5事業について挙げておきます。がん、脳卒中、急性心筋梗塞などの医療提供体制は、救急搬送といった仕組みがある程度でき上っています。これからの大きな社会問題として、75歳以上の後期高齢者が急増します。高齢者に多い疾患への対応はこれまで議論されてきておらず、医療計画にも含まれていません。現実のニーズに対応できなくなってきているのです。
高齢者に多い急性疾患はすでにわかっていて、脳梗塞、誤嚥性肺炎、尿路感染症、心不全、大腿骨頚部骨折です。重症とまでは言えないものの、患者の多くが救急車で搬送されてきます。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、東京や大阪などで何が起きたかというと、こういった疾患の高齢者の搬送先がなくなりました。
高齢患者の受け皿づくりは医療計画で整備すべきです。治療後に自宅に帰れない場合の対応がうまく機能していないため、結果として、7対1の急性期病床の在院日数を延ばすことにもなります。
また、脳梗塞で検査をしたら腎臓が悪い、糖尿病が悪化しているといったように、高齢患者は複数の疾患を抱えているケースが多い。そうすると、総合的に診ることができる医師が必要です。
総合的に診てくれる医師は専門医制度で養成しようとしていますが、毎年100人程度にとどまっています。これでは、急増する高齢者に追いつきません。同制度に頼らず、医師のキャリアパスの一環として、病院では日本病院会が認定する病院総合医、外来・在宅ではかかりつけ医の認定を進めていかなければならないと思います。
病院総合医は、診療科の縦割りによる弊害がクローズアップされたときに、病院にも総合的に診てくれる医師が必要と考え、養成していますが、現状で169人ほど。目標は1000人と言っていますが、それぐらい増えれば、病院で複数疾患を持つ患者の管理が適切に行えるようになると期待しています。
「医療機能情報提供制度」によって、病院は都道府県に対して自院の機能を報告することになっていますが、かかりつけ医機能を発揮している場合は、そのことを報告することになっています。それを受けて、都道府県は公表しなければならないとしていますが制度自体が広く知られているわけではありません。
かかりつけ医機能については、診療所のほか、中小規模の病院も担うべきだと考えています。こういった病院は多様多彩な高齢者を診ることから、入院機能についても多機能でなければならないでしょう。大規模病院で高度専門医療を終えた患者は、治療が終わったらかかりつけ医に返します。そうすれば大病院と、治療後にも入院医療が必要な患者やその後の外来診療を行う中小規模病院、治療後の外来診療を行う診療所のそれぞれの地域における役割分担が明確になるのではないでしょうか。
外来機能広告制度と紹介受診重点医療機関
──役割分担といえば、外来機能報告制度や、2022年度診療報酬改定で新たな制度として「紹介受診重点医療機関」が打ち出されました。
前編でも、地域医療支援病院がもともとは病院と診療所との外来機能分化を目的としたものだったと話しました。今回、外来機能報告制度をつくったうえに、紹介受診重点医療機関をつくったのはまったく理解できません。
地域医療支援病院とは何が違うのか。外来に来る再診の患者をどうするかといった議論が全然されないまま、余分な制度をつくっているだけのように見受けられます。
何が目的なのかをもう一度はっきりとさせ、これからの社会を見たときに、数多い一般病院が機能分化をして、互いに役割分担をして各々の役割を担っていくことを考えなければいけないでしょう。そのことをやはり、きちんと議論しなければならないですし、日本病院会としても、考え方、今後の議論の方向性を示すといったことをしていかなければならないと思っています。
これからの超高齢社会を円滑にしていく方法論を打ち出していくことが、われわれの役割だと考えています。(『最新医療経営PHASE3』2022年7月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。