経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第24回
コロナ対応が踏み絵になる?
〜感染対策向上加算の改定をどう読むか

疑義解釈その1が3月31日に出され、翌4月1日から2022年度診療報酬は本格的にスタートしました。非常に細かな改正内容が多いことが反映し、20年度改定時の疑義解釈その1は38ページだったのが、22年度改正では156ページと倍近い量になりました。今回は疑義解釈その1のなかでも、特に困惑の声が多い「感染対策向上加算」に注目したいと思います。
*本連載は4月15日時点の情報を元にしております。最新情報も併せてご確認ください。

感染防止対策加算は「感染対策向上加算」に

感染症対策に関する加算である感染防止対策加算について、2022年度診療報酬改定において名称が感染対策向上加算と変わり、加算は、2段階から3段階となったことに加えて、診療所の評価として「外来感染対策向上加算」が新設されました。22年度改定の基本方針にある2つの重点課題のうちの一つ、「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」を体現する改正と言えます。
感染対策向上加算は加算を算定している医療機関同士のつながりをさらに強化することで、地域における新興感染症の対策が強化される仕組みとなっています(図表1)。
従来よりも点数は大きく上がっていることからもわかるように、感染症対策として医療機関に課せられる役割は増えており、特に加算1については地域における感染対策訓練を実施するなど、ICT担当者の負担は増していることから、算定条件をクリアすることが決して簡単ではない設計と言えます。

図表1 感染症関連の加算による地域連携

疑義解釈その1に全国が戸惑いを隠せない

3月31日に、2年度診療報酬改定に対する疑義解釈その1が示されました。そのうち、全国の医療機関が思わず“2度見”してしまったと思われる(筆者の勝手な想像です)文章の一部を以下に示します。

問8:感染対策向上加算1の施設基準における「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて感染患者を受け入れる体制」について、具体的にはどのような保険医療機関が該当するか。

答:現時点では、新型コロナウイルス感染症に係る重点医療機関が該当する。

問9:感染対策向上加算2の施設基準における「新興感染症の発生時等都道府県等の要請を受けて…疑い患者を受け入れる体制」について、具体的にはどのような保険医療機関が該当するか。

答:現時点では、新型コロナウイルス感染症に係る協力医療機関が該当する。

問10:外来感染対策向上加算並びに感染対策向上加算3の施設基準における「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて…発熱患者の診療等を実施する体制」について、具体的にはどのような保険医療機関が該当するか。

答:現時点では、新型コロナウイルス感染症に係る診療・検査医療機関が該当する。

新型コロナウイルス感染症に係る診療体制を整えていない場合には、新設加算である感染対策向上加算は算定できないということです。特に、旧加算1・2を算定していた病院のうち、コロナに罹患した場合に重症化が考えられる透析患者を主に扱う医療機関などさまざまな理由からコロナ対応を選択しなかった医療機関にとっては、「まさかコロナが踏み絵になるとは……」と、まさに「晴天のへきれき」と言わざるを得ないほどの衝撃を受けているところもありました。
また、重点・協力の指定について、都道府県で対応に違いがあることを問題視する声が聞かれています。この点については、各メディアでも全国の困惑状況が報道されており、今後の事務連絡も、注目しておく必要があると考えています。

22年度改定を踏まえて考えたい「病院のあり方」

22年度改定が行われ、新しい診療報酬制度はスタートしています。今までも、改定のたびに「収入が上がるから〇〇を行おう」と体制が変化してきたと思います。いわゆる「政策誘導」ですね。今次改定でも、「感染1の点数がとても高くなったので感染1を検討したい」という経営者の声も聞かれました。ただ、制度は病院をよりよくするための手段であり、制度に倣うことが目的ではありません。
病院のめざしたい「あるべき姿」の実現という理由ではなく、2年に1回という短いスパンで変化す診療報酬に左右されて、改定を追うことだけが目的になってしまい「この新しい加算は点数が高いから取得しよう」と安易に検討してしまう状況があるならば、ふと立ち止まって考えていただきたいと思います。
改定よりも、自院の疾患構成や患者特性を考慮したうえで医療の質を向上させる取り組みを行っている病院は、さらなる専門性を追求した職種の育成(たとえば認定看護師、外部研修の参加など)や必要と思われるチームの検討・設置に積極的に取り組んでいます。
すると、私のお客様である病院からは、「診療報酬で後から評価されることが多くなりました」といった声が聞かれます。
改定されたからと常に急ごしらえで体制を整えている病院と比べると、提供される医療の質はもちろん、職員のモチベーションもおのずと異なります。
制度としてどうであるかは別の議論として、今回のような改定があったとしても、病院としてあるべき姿を考えて改善行動をし続けることが大切だと思います。

次に、病院としてあるべき姿を意識するかしないかで改定に対する受け止め方は変わるものだと感じたケースを紹介します。このケースを参考に、今後の病院のあり方を考えていただけたら幸いです。

図表2 感染対策向上加算改定概要(病院に関連する加算のみ、太字下線が主な改定項目)

2022年度診療報酬改定説明会資料p217より筆者が抜粋・加工
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000911809.pdf

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:COVID-19対応をどうする?新加算の受け止めがわかれた2病院

地域密着型のケアミックス病院であるA病院とB病院のお話です。

A病院を有する法人には、ほかに介護関連施設があります。コロナ禍の数年前、法人は介護の経験から、地域住民に心地良い療養環境を提供するために、「プライバシーに配慮した全室個室」「独特の臭い対策に個別空調」を重要視したA病院の改修を行っていました。
当時は、近隣の施設から「なぜそここまで費用をかけて行うのか」という声が上がりました。しかし、世の中がコロナ禍となっても患者家族の面会を禁止することはなく、また「地域密着型の医療機関として快く応じる」として、新型コロナ感染症患者の受け入れを開始(協力病院)しても院内クラスターの発生はなく、感染対策として十分な環境が整えられていたことが院内外から高く評価されています。
もともと感染防止対策加算1を算定していましたが、協力病院のため、4月からの算定は新加算2に。ただ、地域の医療機関介護施設からの信頼は厚く、加算が何であるかは関係なく、感染対策に関しては地域のなかで先導していこうと、CT担当看護師と地域医療連携室を中心に独自のネットワークを築く準備が行われています。きっと、A病院では今後も、地域のあらゆる施設とよりよい連携を築いていくことで「地域になくてはならない」という確固たる地位を確立し続けていくことでしょう。

B病院は、感染防止対策加算2を算定しており、近くに大きな急性病院(感染防止対策加算を算定)があるという環境です。コロナ禍、たびたび市町村から患者受け入れに対する要請はあったものの、職員からの抵抗や近隣住民からの反発を考慮し、新型コロナ患者の積極的な受け入れは行わず、新型コロナ後の患者のみを受け入れることを表明していました。
コロナ禍にあっても新型コロナ以外の救急受け入れは積極的に行い、適切なベッドコントロールを続けることで病院収入にマイナスの影響はなく、むしろ、経営的な数値は右肩上がりで進んでいました。そうしたなかで2022年度改正が行われ、感染防止対策加算改め感染対策向上加算は大きく点数がアップすることがわかると「さらに収入は底上げされる!」と、病院職員のお祝いモードになりました。
しかし、3月4日告示・通知から3月31日に疑義解釈その1が出ると、一転、お葬式モードに。当然、協力病院でもないので新加算2を検討することはできません。院内ではいまだに、「だから私は新型コロナ患者を受け入れたほうがいいと言ったのだ」という声がそこかしこで聞かれる状態に。「加算を引き上げるためにどうするかという議論よりも、誰にこの責任があるのかという議論になってしまっており、改善に向けた前向きな話ができていません」と、B病院の経営企画室の職員はうなだれています。
ちなみに、B病院の経営幹部は「制度がおかしい!新型コロナ対応とは違う形で地域医療に貢献しているのに」と憤慨しているとのことです。

「地域に愛される病院」という病院としてのあり方をめざしていた2つ病院の実態は、大きく異なっていたのでした。皆さんはこのケースから、何を学びますか?(『最新医療経営PHASE3』2022年6月号)

まとめ

  • 2022年度診療報酬改定の2つある重点課題の1つは「新興感染症対策」であり、それを体現するのが「感染防止対策加算」から「感染対策向上加算」への変更である
  • 感染対策向上加算1は「コロナ重点医療機関」、加算2は「コロナ協力医療機関」、加算3は「コロナ診療・検査医療機関」が該当するという疑義解釈に全国が困惑している(今後の事務連絡に注意する必要あり)
上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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