Dr.相澤の医事放談
第26回
地域の医療提供体制のなかで
多機能を持つ中小病院をとらえる
2022年度診療報酬改定では、「急性期充実体制加算」の新設を代表するように、高度急性期への評価が目に留まった。一方、地域包括ケア病棟では自院からの転棟割合などの「減算ルール」が大幅に増えている。「中小規模の病院に厳しい」と相澤孝夫先生は指摘し、「国がつくりたい医療提供体制の姿が見えない」と苦言を呈する。
「なんちゃって急性期」も患者に求められている
――今回の診療報酬改定について、どのように受け止められましたか。
厚生労働省としては、医療費を抑えるという基本方針を踏まえたうえで、病床の機能分化を進めなければいけないと考えたように思います。地域包括ケア病棟については、いわゆる「はしご外し」ではないでしょうか。そもそも、同病棟ができたときに、「大病院では地域包括ケア病棟を開設できない」とすればよかったのです。それを、7対1急性期を減らすことを考え、すべての病院に認めた結果、病床だけは転換したものの、病院自体の機能分化が全然進んでないことに気づいたのでしょう。
本来は「病院」の機能分化をし、地域内で連携をしなければいけないのに、さしあたって病院内での病床転換をしても、院内での機能分化・連携にとどまります。200床以上の病院では、自院からの転棟割合が6割以上の場合、15%の減算となっています。また、100床以上では「入退院支援加算1」の取得が義務となり、クリアできないと10%の減算です。
いわゆる中小病院で、二次救急をやりつつ同病棟を持っている病院への締めつけが厳しくなっていて、今後、どうなってしまうのかと考えています。同病棟ほどではありませんが、回復期リハビリテーション病棟においても、同じような傾向が見えています。
診療報酬の流れから、中小規模の病院が経営的に苦戦を強いられていると感じています。地域に密着した医療提供をしようとなると急性期病棟は欠かせませんし、地域包括ケア病棟も持たないといけない、場合によっては回復期リハビリ病棟も必要です。そういう病院の急性期機能を「なんちゃって急性期」と言う人もいますが、急性期の患者さんを診ていることは間違いないし、機能として求められています。何より、こういった病床があったからこそ、日本は高齢者に対して優しい医療を提供できていたのだと思います。
救急や手術が病棟単位で行われているわけではないのと同様に、医療提供は病床機能ではなく病院全体で行っています。救急車で搬送されてきた患者さんを急性期病棟に入院させ、病状が落ち着いたので地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟に移すことの、何が悪いのでしょうか。「自院内転棟をしてはいけない、点数を減らす」というのはおかしいです。言葉は悪いですが、中小病院つぶしみたいなイメージを抱いてしまいます。
難しい疾患ではないけれど入院加療が必要な患者さんを受け入れる病院というのは、地域にとってものすごく大事です。これまでそういう病院を粗末に扱ってきたから、今回のコロナ禍で患者さんの受け入れができず、困っているのだと思います。実際に、高度急性期を脱した後に転院先が見つからず、でも持病が悪化しているから治療を受けなければならない患者さんの行き場がなくなっています。
どんな医療をしたいか国の考えが見えない
――「病床」機能分化ではなく、「病院」機能分化を進めていかなければならないということですね。
病院側の体制ではなく、多機能を持つ病院をどのようにしていけばいいかが大事。現状からは、こういった病院の経営が今後、一番苦しくなっていくのではないかと危惧しています。
厚労省がつくりたい医療提供体制の姿が、全然見えてきません。だから私は、今回の改定を場当た的、「部分最適化をめざしているパッチワーク的な医療政策」と指摘したのです。診療報酬というお金で誘導していくことをやっているだけで、どんな医療をしたいのかがわからないのです。
それから、新たにできた「紹介受診重点医療機関」についても、重点的に外来を担う病院を何のためにつくるのか、どんな役割を担うのか、その将来像が見えないなかで、病院がコミットしようとなかなかならないのは当然です。どう考えたって病院は外来機能だけ切り離すなんてできないし、病棟に関しても一つの機能だけを切り離せないわけで、病院全体で医療提供を考えていかなければなりません。
高度急性期は集約化・集中化を図る一方、今後爆発的に増える、多疾患を抱える75歳以上の患者さんを診る急性期病床はもっと必要となります。病床数が多い病院は高度急性期を担う――というのではなく、地域のなかで病院がどうあるべきかの視点が大事なのではないでしょうか。
――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2022年5月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。