経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第22回
地域包括ケア病棟の改定は
ベッドコントロールと地域連携がカギ

2022年度診療報酬改定のいわゆる「答申(短冊に点数が入ったもの)」が、2月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で示され、改定内容と変化する施設基準や収入インパクトなどの数値を合わせて把握できるようになりました。今回は特に細かな改正が行われた地域包括ケア病棟について取り上げたいと思います。
*本連載は2月9日時点の情報を元にしています。最新情報も併せてご確認ください。

地ケアは3つの機能すべてを担っていると高評価に

地域包括ケア病棟入院料(以下、地ケア)は、地域包括ケアシステムの立役者として「急性期の受け皿」「在宅の受け皿」「在宅移行支援」といった3つの機能を担う入院料として、2014年に新設されました。
地域における医療ニーズによって地ケアの3つの機能別の活用実態はさまざまあり、特に、退院後にADLに変化が生じることの多い高齢の患者は、急性期病床からすぐに自宅等へ退院することは難しいため、急性期病床を適正な高回転で維持するための「急性期の受け皿」であり「在宅移行支援」の場として活用できる地ケアは重要な役割を果たしていました。しかし、地域包括ケアシステムの確立と言われている25年を目前にした今回の改定では、地ケアの3つの機能をすべて担っている医療機関最も評価する制度に変更することになりました(表1)。私は、地域包括ケアシステムの確立に向けた集大成としては早い「梯子ズラし」であると感じています(梯子外しとまでは言いません!)。

今回の改定の特徴として、3つそれぞれの役割を十分に果たしていない場合の点数づけとして「減算」という表現が増えています。そして、現行制度に合った実績要件が少しずつ厳しくなりました。
急性期病床の減少へ向けた政策誘導的な役割として旨味のある「梯子」として登場した地ケアの背景を考えると、その路線変更が早く行われたように感じる改定内容になっています。

表1 地域包括ケア病棟入院料の変更点(太字・下線が改定部位)

③地ケア実績について
1:当該保険医療機関において在宅患者訪問診療料((I I)及び(II II)の算定回数が直近3カ月間で30回以上
2:当該保険医療機関において在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料又は精神科訪問看護・指導料の算定回数が直近3カ月間で60回以上
3:同一敷地内又は隣接する敷地内に位置する訪問看護STにおいて訪問看護基本療養費又は精神科訪問看護基本療養費の算定回数が直近3カ月間で300回以上
4:当該保険医療機関において在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料の算定回数が直近3カ月間で30回以上
5:同一敷地内又は隣接する敷地内に位置する事業所が、訪問介護、訪問看護、訪問リハ、介護予防訪問看護又は介護予防訪問リハの提供実績有り
6:当該保険医療機関において退院時共同指導料2(外来在宅共同指導料1含む)の算定回数が直近3カ月間で6回以上

出典: 2022年2月9日中央社会保険医療協議会答申資料を参考に筆者作成

200床以上への挑戦!一般病棟からの転棟割合

前回改定で許可病床400床以上の病院について、「自院一般病棟からの転棟割合が6割を超えると減算する」という内容が追加されました。400床以上の病院では、地域特性により「減算もやむを得ない選択」として受け入れた病院もありました。今次改定では許可病床数の基準が下がり、より多くの病院に一般病棟からの転棟割合の基準が定められています。改定の議論を注視していた病院の皆さんは自院の実績値についてすでに数値を把握されていると思いますが、そうでない病院も多いようで「どうしよう……」と悩まれている声を耳にします。
自院一般病棟からの転棟割合を下げるためには、地ケアへの直接入院(以下、直入)の数を増やしていかなければなりません。疾患構成にもよると思いますが、短期滞在手術3(DPC対象病院であればD方式と言われるもの)にあたる白内障、ポリペク(大腸ポリープ切除)、SAS(睡眠時無呼吸症候群)等を地ケア直入疾患として検討している病院が多いようです。一般病棟そして地ケアの看護必要度重症度割合との兼ね合いを考えながら、地ケアの活用方法を検討しましょう。

200床未満の病院は特に在宅復帰率に要注意

200床未満であれば、入院料1・管理料1(以下、地ケア1)または入院料3・管理料3(以下、地ケア3)を届け出ている病院が多いと思います。今まで地ケアの役割を果たしていることを示す実績が必要であった項目については、その基準が少しずつ厳しくなりました。特に在宅復帰率の基準見直しは注意が必要と考えます。在宅復帰率の基準は、地ケア1は70%から72.5%に、地ケア3は基準が無かったのですが70%(満たせない場合には90%に減算)になりました。在宅復帰率について7割ギリギリで運用していた地ケア1、または在宅復帰率を気にしていなかった地ケア3にとっては、入退院支援部門と十分な連携を行い、在宅に帰ることができる患者の選定や、退院支援の見直しが必要です。

ベッドコントロールのカギは院内外の連携

私が特に注目したい地ケア改定内容は、「100床以上の病院における地ケア1・2について入退院支援加算1を届け出ていないと減算」です。以前より入退院支援の大切さが垣間見える改定が行われてきましたが、地ケアの要件になったというのは驚きです。
入退院支援加算1はご承知のとおり、入退院支援部門と病棟(2病棟に1人以上)にそれぞれ専従・専任の入退院支援職員を配置するなど、十分な人員配置が必要です。21年8月6日に行われた中医協専門組織・入院医療等の調査・評価分科会の資料によると、20年度入院医療等の調査で、入退院支援加算1は、急性期一般入院料1では80%弱の病棟が届け出をしている一方、同入院料2~7では40%弱、地域包括ケア病棟では45%ほど、療養病棟では10%強というデータが示されています。経過措置はあるにせよ、入退院支援室には人の流動性を踏まえた十分な人員配置が不可欠です。また、人員が配置されたとしても、入退院支援の要と言える良好な院内の人間関係の構築には、十分な時間が必要です。

さらに、表2に、初期加算の変更についてまとめたものを示します。地ケアに入棟する前の属性により、初期加算は細分化されることになりました。14日間の積み上げでは、最も高い老健からの入院患者と400床以上の急性期病院である自院からの転棟患者ではその差が6300点と、収入に与えるインパクトが大きく異なります。
自院の一般からの転棟よりもそれ以外の評価が非常に高くなったということは、入退院支援室として地域の医療ニーズを把握し、必要なときにすぐにバックベッドとして活用できる体制の強化が、経営戦略として重要性が増したことを意味します。したがって、院外との関係性強化にも努めなければなりません。

今回の改定は、自院の地ケアの役割と入退院支援部門のあり方を見直すきっかけになるのではないでしょうか。次のケースを参考にご検討ください。

表2 2022年度改定による地域包括ケア病棟入院料の初期加算の変化

出典: 2022年2月9日中央社会保険医療協議会答申資料を参考に筆者作成

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:ベッドコントロールに医師を巻き込め!悩む入退院支援室主任

急性期病棟地域包括ケア病棟(入院料2)、療養病棟を有する300床強の地域密着型ケアミックス病院のお話です。入退院支援室主任を務めるのはこの病院で新卒から育った看護師Aさん。22年度改定から地域包括ケア病棟が改正されたことで、特に①在宅復帰率72.5%、②自院の一般病棟からの転棟割合6割未満、③自宅等からの入院割合2割――が厳しくなるのではないかと地域包括ケア病棟師長Bさんとともに私に相談がありました。

入退院支援室Aさん「入退院支援室で一番上の役職は主任の私。そして入退院支援室は事務部のもとにあるため、この部門の上は事務長です。入退院支援室の役割としてベッドコントローラーがあるのですが、実際には事務長におうかがいをたてなければなりませんし、医師との交渉は私の権限が低いため、うまくいきません」

地ケアBさん「地ケアにいる患者のほとんどが急性期病棟からの転棟患者です。事務長が言うには「急性期病棟の方が点数が高いから」と、どんな状態であっても大体急性期病棟を通ります。22年度改正を受けて、たとえば糖尿病の教育入院や短期滞在手術3(DPC病院であればD方式)である患者を直接地ケアに入院させたら良いのではないかと伝えたのですが、関係する疾患を受け持つ医師から「信頼できる看護師がその病棟にいないからNO』と言われてしまいました。地ケア病棟にも急性期を経験した十分にスキルを持つ看護師はたくさん所属しているのですが……。特に糖尿病教育入院については急性期病棟で入院していることで看護必要度も低くなってしまうというのに(地ケアは教育入院が入ってきても重症度割合に問題ないことを確認している)、本当に困ったものです」

入退院支援室をセンター化し、病院の戦略部門として活躍の場を広げている病院はその病床規模によらず増えてきましたが、いまだに「ベッドコントロールは看護師がどうにかして」「入退院支援など患者にかかることは看護師だろう」「入退院支援に人を配置するだけの人材がいない(探そうという気がまるでない)」と、この病院のように組織が入退院支援室を動きにくい環境にしている病院も少なくないように感じます。

上村「まず、入退院支援室が動きやす環境を整えましょう。医師に協力を得やすいよう、室長を医師に据えませんか?病院では副院長であるケースが多いと思います」
それから院長・副院長・事務長・看護部長を巻き込んだ話し合いの末、イヤイヤ顔ながらも副院長が室長を兼務することになりました。「やっと入退院支援室の形が整ったように思います」とはAさんの言葉です。室長となった副院長先生は小言を(たくさん)言いながらも、Aさんをはじめとした周りの応援を受けて、少しずつですが協力しようとする姿勢を示しているとのことです。(『最新医療経営PHASE3』2022年4月号)

まとめ

  • 地ケアは「急性期の受け皿」「在宅の受け皿」「在宅移行支援」という3つの機能をすべて担う病院が高い評価に
  • 自院一般病棟からの転棟割合が求められる病床数が200床以上に引き上げ!どういう症例を地ケアで直接受け入れるか検討は必須(短手3、D方式が対象になる?)
  • 在宅復帰率の要件見直し!スムーズな退院に向けて入退院支援室との連携が不可欠
  • 入退院支援加算1は地ケアを有する病院にとって要に!十分な人員を配置すると共に、院内・外の連携に注意して病院収入UPにつなげよう
上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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