Dr.相澤の医事放談
第24回
看護師の配置と医療資源の投入、
急性期かは別の指標で測るべき
2022年度診療報酬改定は、個別改定項目の議論を終え、ほぼ全貌が出揃った。毎回注目される重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)は、「適切に医療資源を投入する体制を構築する」として、今次改定でも見直された。相澤孝夫先生は、「看護必要度はやめるべき」と持論を述べる。
DPCデータの活用で急性期の期間を判断
――2022年度診療報酬改定では、看護必要度の見直しが好ましくない方向に進んでいるとの指摘があります。
診療報酬は、行っている医療をしっかり評価し、そこへの対価を払うというものです。今の看護必要度が本当にそうなのかを考えなければいけないと思います。事の発端を考えると、看護必要度は看護の大変さを測る指標として、看護配置をどうしたらいいかというところから始まったのです。いつしかそれを利用し、7対1看護基準の病床を減らそうという方向に切り替わってしまいました。その時点で、看護必要度を軸とした考え方はやめてしまったほうがよかったと思います。
これが、自院の急性期患者さんを診ている正しい指標となっていないことは多くの人がわかっています。何を実施しているかの項目を挙げて、どういう割合にすれば7対1病床がどれぐらい減らせるかというのが、今の議論の中心。これでは、患者さんのためにも、病院のためにもなっていません。
医療の質を担保しようとすれば、できるだけ早く静脈からの栄養であるIVHなどはやめて、経口に切り替えるほうがいいと考えるのが当然です。しかし、経口に切り替えると評価されなくなってしまいます。経管栄養や静脈栄養をずっとやっていたほうが急性期だとなってしまうのです。確かに、経管栄養やっていれば看護師の手はかかりますが、それは急性期の状態ではありません。場合によっては、7対1を維持するために必要ではない医療行為を続けるといったことも起こり得ます。
手術や検査などといったあるイベントが起こってから何日間が急性期なのかは、DPCデータを見れば明らかです。DPCのコードごとに見ると、軽症の急性期の医療資源量はそれほど多くはなく、急性期の期間もすごく短くなっています。たとえば肺炎で入院して、熱もあって脈拍も早く、血液の検査で異常があり血中の酸素飽和度が下がっている状態とします。酸素を投与してさまざまな点滴や解熱剤を使い、1週間経ったらもう一度検査をして治療方法を練り直すといった段階は、もう急性期ではありません。高齢者の大腿骨頸部骨折であっても、入院して手術、術後管理をするのも、急性期と言えるのはせいぜい4~5日です。
一方、心筋梗塞やくも膜下出血は、手術後に2週間程度は厳重なチェックが必要です。投与資源量も多くなりますが、それだけでは急性期の期間を測ることはできないと言えるでしょう。また、同じ疾患であっても、患者さんのもともとの状態によって看護が必要な割合は変わってきます。繰り返しますが、これは、看護師の配置をどうしたらいいのかを決める基準であって、急性期の診療を示すものではないのです。
看護師の評価は急性期医療の評価と別に
――看護必要度については原点回帰で、そもそもの考え方に立ち帰るべきだということですね。
急性期かどうか、看護が必要かどうかは、別の指標でみなければなりません。今後、高齢者が増えれば、看護師のケアがもっと必要になるのは明らかです。ただし、看護師を手厚く配置していれば急性期の患者さんを診られるのかということも考えなければならないでしょう。
中央社会保険医療協議会(中医協)の議論のなかで、看護必要度の4つの見直し案が出ましたが、シミュレーションでは、一番変更の幅が大きい案を採用すれば20%近くの病院が急性期一般入院料1を維持できなくなります(取材後、2番目に厳しい「見直し案3」の採用が決まった)。7対1を絞りたいのであれば基準を厳しくすれば解決しますが、急性期かどうかという本質的な議論とは言えません。該当患者割合を何%にするかを決めるだけの不毛なことはやめて、本来の評価を行うべきです。
日本の診療報酬制度は出来高払いに準拠しています。看護師については、以前は入院料とは別に評価されていたのが包括となってしまいましたが、看護必要度については、これをもう一度復活させればいいと思います。
患者さんの病態によって看護師や他の医療職の介入が必要となるわけで、その分を評価するというのがあるべき姿ではないでしょうか。診療報酬のあり方が、根本的に変わってしまっているのではないかと思わざるをえません。
――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2022年3月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。