Dr.相澤の医事放談
第23回
医療体制の全体像を示したうえに
点数配分、算定要件の議論がある

2022年度診療報酬改定に関する、中央社会保険医療協議会(中医協)での議論が大詰めを迎えている。1947年~49年生まれのいわゆる「団塊世代」が75歳以上に突入し、本格的な超高齢社会を迎える最初の改定としても注目されるが、相澤孝夫先生は「算定要件の前に全体像の議論をすべき」と訴える。

内科系急性期の議論が求められている

――2022年度診療報酬改定の議論が大詰めを迎えています。

地域包括ケア病棟に求める機能などに言及がありますが、全体像を示す「青写真」が示されておらず、「つぎはぎ」を続けている印象がぬぐえません。たとえば、医療現場では高齢者が大きなテーマで、特に内科系の急性期医療が切実です。この問題にどう臨むかというテーマを設定せずに、地域包括ケア病棟の算定要件の議論をしているからそうした事態に陥っているのではないでしょうか。

実際、内科系急性期医療を担っている病院の経営は切迫していますが、一方で地域での必要性は増すばかり。解決策の一つは、「急性期病院」と名乗ってきた病院の病床を切り離し、新たに内科系急性期高齢患者を主として診る病院を設けてもいいのではないか。そういう考え方、議論こそ必要で、急性期一本の相澤病院から病床を切り分け、全床、地域包括ケア病棟の相澤東病院を立ち上げ、その是非を問うているのです。

地域に求められる医療機能を明確化する

――具体的な医療機能が描ければ、必要な設備や費用なども想定できます。

その前に、まず「青写真」、つまり全体像を描くことが必要です。たとえば、人口50万人の住む範囲を一つの地域として設定した場合、高度急性期病院は2施設、計1000床くらいあれば対応できるだろう。それを囲むように、主として内科系急性期医療を担い、必要に応じてかかりつけ医機能も備える地域密着型病院を人口5万人に1施設の割合で設ける。1病院・250床くらいが理想だろうと思いますが、そこはそれぞれで議論すればいい。さらにそれを囲むように、人口2000人に1カ所、かかりつけ医機能を備えた診療所があれば地域の人たちも安心して暮らせるのではないか――。
私案としてはこうしたイメージですが、当然、異論もあるはず。そうしたことを議論しながら、それぞれに必要な機能、維持するための費用や収益を考えるべきです。

地域密着型病院として機能し、対象となる患者も内科系にある程度限定するなら、手術室の設備も重装備にしなくてもいい、病棟のスタッフ配置も7対1に固執しなくてもいいはずだといった話です。そうすれば、入院単価7~8万円を無理に稼ごうとしなくても、十分、利益は確保できるといった目算も立ちます。もちろん、転換にあたっては費用が発生しますから、地域医療介護総合確保基金から支援金を用意するといった案も出てくるでしょう。
それがないままに診療報酬の算定要件だけを議論しているからおかしなことになるし、自院内の急性期病棟7対1体制を維持するために、地域包括ケア病棟は都合がいいという使い方を許してしまうのです。

議論の場がないまま政策が決定されている

――検討会など、議論の場はあるようですが、不十分ですか。

社会保障審議会医療部会などの場はあり、私も長年出席していますが、すでに結論は決まっていて、「先生方のご意見は一応、拝聴いたします」というレベルにとどまっています。特に、現在の政策決定の進め方は「官邸主導」なのか、そうした意見交換の機会はほとんど設けられていません。総理と面会する機会はありましたが、3分程度。これでは議論になりません。
もちろん、最終的な決定権は政府にありますが、そこに至る議論では病院の話をしているのですから、病院団体の考えを聞いていただきたい。もちろん、病院側の意見、考えがすべて通るとは思いません。「病院団体の言い分はわかるが、何とかこの枠で収めてほしい」という政府側の要望もあるはず。このときに、議論を尽くしたうえでの決定ならば、私も日本病院会の会長として会員病院に呼びかけることができます。「皆さんの意見を取りまとめて議論に臨んだけれど、国は『どうしても医療費をこの枠内で収めたいので協力してほしい』と言えます。病院も厳しい状況になるが、皆で力を合わせて頑張りましょう」と言えるし、そのために必要な支援を要することもできるでしょう。
ところが、そうした議論の場が一切ないまま、医療政策は進んでいます。それならば、説明責任は国にあるはず。何といっても、国民の命と健康を左右する大事なテーマですから、皆が納得できる手順を踏んでいただきたいのです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2022年2月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング