経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第19回
地域包括ケア病棟の役割で
重視される「訪問」の体制と実績

2025年の地域包括ケアシステムの確立に向けて重要な立ち位置にある「地域包括ケア病棟入院料」について、中央社会保険医療協議会(中医協)の話し合いではその役割が検討されています。今回は地域包括ケア病棟のあり方を成り立ちから振り返りましょう。

増加を続けてきた地域包括ケア病棟入院料

2014年度診療報酬改定で登場した地域包括ケア病棟入院料を算定する病床は20年7月時点で9万2829床となり、医療の進歩と標準化による急性期在院日数の短縮と、少子高齢化のために病床稼働を維持し続けることが難しくなった急性期病棟の受け皿として、年々増加してきました。

地域包括ケア病棟入院料が誕生した当時、在院日数の適正化が思うように進まないDPC対象病院にとって、救世主になった部分がありました。入院期間が長くなると日当点が下がるだけでなく、DPC対象病院の収入の根底となる機能評価係数IIの効率性係数が低くなってしまうことから、在院日数が長くなる前に地域包括ケア病棟入院料の病棟へ転棟させるという戦略をとれるようになったためです。
このことにより、急性期病棟では十分にできなかった退院調整が地域包括ケア病棟では行えるなど、医療者も患者やその家族にとっても、安心して退院できるような環境が整えられるようになったのです。
また、地域包括ケア病棟入院料は増えすぎた旧7対1入院基本料(現行制度では急性期一般入院料1)の減少を政策的に誘導できるよう地域包括ケア病棟入院料の点数は決して低くない設定となっており、病院経営上のメリットが多い入院料と言えます。
この1、2年は増加の勢いが鈍化しているとはいえ、地域医療に必要な病床機能であることは間違いなく、今後も地域医療構想などと合わせて算定する病院数の増加が予想される入院料です。

地域包括ケア病棟入院料に与えられた3つの役割

地域包括ケア病棟入院料は、①急性期治療を経過した患者の受け入れ、②在宅で療養を行っている患者等の受け入れ、③在宅復帰支援――の3つの役割を持つ病床として新設されました。これは、現在、実績部分として要件に入っています(表1参照)。
これらの役割を果たせる病院に設置できるようにと、16年度改定では、500床以上の病院では1病棟までに制限がかかり、20年度改定では、400床以上の病院において新規の届出が不可となりました。

22年度改正の視点はこの3つの機能について、11月12日に開かれた中医協では「地域包括ケア病棟に求められる3つの役割について、病床規模や病床種別による患者の背景・地域における運用のあり方等や病床種別による患者の背景・地域における運用のあり方等が異なることも踏まえつつ、役割の一部しか担えていない場合の評価について他の場合と分けて考えることなど、地域包括ケア病棟の機能の差を踏まえた評価について検討を行うべき」という課題が示されました。つまり、機能による入院料の細分化の可能性が浮上しているのです。

表1 2022年度診療報酬改定III-1医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価

「実績」で他病院と比べ自院のあり方を考える

改定に向けた課題は示されましたが、コロナ禍ということもあって、診療報酬改定の積極的な舵取りは難しいだろうと考える反面、自院における地域包括ケア病棟入院料の役割について見直すことは、大切だと考えます。

表2は、中医協資料として提示された入院料別の実績部分を満たしている施設割合です。実績部分は全6項目ありますが、特に一番上の「訪問診療回数」と5番目の「同一敷地内等に訪問事業の提供実績がある」の2点に集中していることがわかります。

改定がどのようになるにせよ、病院調査が議論の材料になることを考えるならば、自院のこれらの実績を調べておくことは極めて重要です。「地域に在宅医療を提供する土台が整っていて関係性も良好なので、自院では積極的な訪問医療の提供は行わない」という選択もゼロではないと思います。ただ、厳しい表現ですが、自院の在宅医療の提供体制を顧みず、地域連携や入退院支援を声高に語る医療機関が少なくないという実感もあります。
先のケースも参考に、自院の病床機能のあり方について考えていただきたいと思います。

まとめ

  • 注目の病床機能である地域包括ケア病棟入院料、政策誘導もあって増加を続けてきた。
  • 3つの機能、①急性期治療を経過した患者の受け入れ、②在宅で療養を行っている患者等の受け入れ、③在宅復帰支援――を持つ病床である
  • 実績部分では「訪問診療回数」と「同一敷地内等に訪問事業の提供実績がある」の達成が多い

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。先に紹介した図表を参考にご覧ください。

ケース:一様に「急性期疾患に興味があって……」と語る医師たちが集まる地域の病院

中医協総会より回復期病棟における診療報酬改定の方向性が示された後に開かれた経営会議での一幕。300床超の規模で、高度急性期から回復期病棟を持つケアミックス病院では地域包括ケア病棟入院料を活用し、主に急性期病床における在院日数の適正化を図ってきました。この病院の入院料は2。地域包括ケア病棟の看護師長は在宅復帰率とにらめっこする日々を送ってきました。

「地域包括ケア病棟入院料に関する改定に向けた議論で、病床の役割について言及されていました。当院は入院料2のため、現時点で(83ページ表1にある)実績部分は不要ですが、万が一、次期改定で実績値の施設基準が設けられたときに備え、当院の実績を調べてみました」と、経営企画室の若手ホープが発表しました。

他院ではクリアしていることが多い訪問診療回数がクリアできていないことに気がついた会長。敷地内にある訪問看護ステーション(機能強化型1)の経営成績が良いことを知っていただけに、思わず驚きの声をを挙げました。

「訪問診療していない!?訪問看護ステーションが頑張っているのに!?医師だって増やしたのに!」

急性期病院では点数が高い疾患が多い診療科や手術等の処置を実施できる医師が多くいたほうがいいとの経営判断から、次々に医師を増やしていました。そうした背景を持つ同院に「訪問診療に行くべきだ」と声を挙げ、訪問看護ステーションの肩をもつ医師はごくわずかになっていました。むしろ「私たちは急性期を担うからあとはお願い」とサジを投げた格好に。訪問看護ステーションとの関係性は言うまでもなく険悪。わずかに協力を得られた医師とで限られた件数をこなしていたようです。

会議参加者の視線が一気にアドバイザリーとして同席する私に集中したとき、私は「2025年に地域包括ケアシステムの確立に向けて地域包括ケア病棟入院料というハシゴが外されるような、劇的な改定が起こる可能性は低いと考えますが」と前置きしたうえで、「本来、訪問看護ステーションが所属する病院の医師が主治医だと連携がしやすく、患者満足度も上がりやすいはず。退院支援もスムーズに行えると語る病院が多い印象があります。新型コロナの影響もあり、地域に訪問診療のニーズも増えていますね。ここは急性期病棟もありますが、回復期病棟も持つ地域のケアミックス病院です。地域包括ケア病棟云々ではなく、公的機関として地域のニーズを踏まえた医療を提供できる体制を考えていきませんか。実績は一朝一夕でできるものではないので、話し合いだけでも始めましょう」と話しました。

さらに、この病院では確かに急性期疾患の患者は増えたものの、地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟の稼働が常に100%を超えた状態となっており、退院支援が十分にできていませんでした。地域包括ケア病棟の師長が在宅復帰率とにらめっこしている理由でもあります。病院全体のベッドコントロールを担う看護師は「在宅へ帰すことができる患者はたくさんいるが、医師の協力が得られない」と日々嘆くばかり。この状況も合わせてお伝えすると、医師は黙り込んでしまいました。

それから多少の「誰がやるんだ」との押し問答の末、まずは医師に対して病院が行っている入退院支援の現状と地域の在宅医療の提供実態を知ってもらう機会を持つことで、コッソリと協力してくれる医師からの声かけが増えてきているようです。(『最新医療経営PHASE3』2022年1月号)

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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