Dr.相澤の医事放談
第22回
地域密着型病院の機能を果たす
病院が増えれば医療体制は強固に

先ごろ、厚生労働省から「第23回医療経営実態調査」の結果が公表された。一般病院の2020年度医業・介護損益率は6.9%の赤字だったという。新型コロナウイルス感染症対策関連の補助金などでかろうじて黒字に転じているが、とても安定した経営状況とは言えず、医療界からは診療報酬のプラス改定を望む声が高まっている。その一方で、「需要と供給」の関係にも目を向けるべきと、相澤孝夫先生は指摘する。

経営苦境の一因は需要と供給のミスマッチ

――厚生労働省から「医療経営実態調査」が公表されました。一般病院の場合、新型コロナウイルス感染症対策関連の補助金がなければ損益率は6.9%の赤字という結果です。

確かに、コロナ禍での患者減は大きな影響をもたらしましたが、コロナ禍前から病院経営は厳しい状況でしたし、そのことはデータでも明らかでした。これについては繰り返し訴えていますし、国にもお耳を傾けていただきたいです。
ただ、私たち病院経営者も、単に診療報酬だけに求めるのではなく、地域に必要な医療を提供しているかどうかを今一度、確かめるべきです。率直に言って、私は赤字の一因として、地域で求められる医療と医療機関側の供給の間にミスマッチが起きていることも挙げられると思っています。

実例として、ある病院は「急性期医療の担い手」を自認していますが、実際には、病棟体制は急性期病床が100床、地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟が各50床。胃がんの手術が年間4~5例、乳がんの手術が8~10例程度です。それでも、手術にこだわって「常勤の麻酔科医が必要です」と主張しています。それでは赤字になります。実際、患者さんのデータを分析すると、この病院よりも遠い病院へ多くの手術患者が入院しています。
では、こうした病院が不要かというと、私はそうは思いません。むしろ、地域で果たさなければならない役割がたくさんあります。それは「手術をガンガンやる」ということではないというだけです。
私は「地域密着型病院」という呼称を提唱していますが、誤嚥性肺炎や軽症の心不全などを診てもらえる病院が近くにあること。これは、地域で、特に高齢者が暮らしていくうえでは欠かせません。高齢者になれば複数の疾患を抱える人が多くなりますが、総合的に診療できる医師が4、5人いれば対応できる範囲も広がるでしょう。

相澤病院も実はミスマッチを起こしていました。全床7対1、SCUやHCUも備えた急性期病院ですが、地域住民の医療を支えることが原点ですから、「地域密着型病院」の機能を備えていました。ところが、急性期医療の需要に応えていくうちにこうした機能を担いきれなくなってきたのです。地域密着型病院で多く見られる疾患は、4、5日もすれば急性期を脱して退院後の相談を始めることになります。それを、医療設備も看護体制も重装備の急性期病床で行うというのはやはりミスマッチです。
そうした問題意識から、全52床が地域包括ケア病床という相澤東病院を6年前に開設しました。開院当初は「慈泉会が慢性期医療に手を伸ばした」と言われましたが、需要にまじめに応えれば必ず伝わるもので、平均在院日数は3日程度で満床が続いています。患者の半分は相澤病院からの転院ですが、もう半分は診療所からのご紹介です。あと30床ほどあれば、もっといろいろな医療が提供できると考えているほどです。
こう考えていくと、現在国が進めようとしている中小病院の整理は、地域の医療需要に逆行していると言えます。確かに、需要と供給のミスマッチはあるけれど、そここで整合性が取れれば、むしろ地域の安心に貢献できる医療資源になるのです。

地域密着型医療を担う診療所が6万件あったら

――地域医療体制の層は厚くなりそうです。

これに診療所がかかわるとさらに盤石になるでしょう。実際、相澤東病院の診療圏は半径3km程度で、それ以上遠くなると「地域密着」というわけにはいきません。もっと近くで通院できる医療機関、つまり診療所が必要になります。

昨年より慈泉会として初めて診療所経営に取り組んだのですが、このことを痛感しています。診療圏の人口分布を見ると2000人ほどで、学校保健医や予防接種なども担っています。そこへもともと展開していた訪問看護ステーションを併設して在宅療養患者もカバーするようになりました。相澤病院、相澤東病院とはIT網で患者情報を共有する仕組みができあがっていますから、万が一入院する必要が生じても、安心して診療継続ができるわけです。
単純計算ですが、人口ベースで掛け算すると、このような診療所が6万件あれば全国でこの体制が築けることになるわけです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2022年1月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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