経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第18回
現場と医事課の連携を強化し
救急医療管理加算を着実に算定

2022年度診療報酬改定に向けた話題のなかで、今回ご紹介するのは救急医療管理加算です。DPC対象病院として重要な加算の1つと言えるこの加算を紐解き、自院の課題を考えるヒントにしていただきたいと思います。

救急医療管理加算が重要な3つの理由

救急医療管理加算はDPC対象病院にとって

①直接的な病院収入
②機能評価係数II
③重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度II)

という3つの重要な意味を持っています。

「直接的な病院収入」については言うまでもなく、加算1であれば950点、加算2であれば350点、最大7日間算定可能という、小さくない金額をもたらす加算であるということです。2020年度診療報酬改定にて、それぞれ+50点ずつ評価が上がりました。

「機能評価係数II」は、6つある項目のうち「救急医療係数」に救急医療管理加算の算定件数が大きな影響を与えます。救急医療係数は、病院として救急対応を積極的に応需するという自助努力で改善が期待できる項目であり、係数が高まることで病院収入を引き上げる土壌をつくることができます。

「看護必要度II」では、A項目にある「緊急に入院を必要とする状態」の要件が救急医療管理加算の算定にあたります。この「緊急に入院を必要とする状態」は1つの項目で2点の高評価となっており、急性期病院のあるべき姿として、救急医療管理加算の算定が重要視されていることがうかがえます。20年度診療報酬改定で救急医療管理加算が見直されたことにより、同年の改定から看護必要度の評価項目に加わりました。

20年度改定で何が見直されたのか

20年度改定では、救急医療管理加算12がそれぞれ50点ずつ評価が引き上げられ、その代わりに、緊急に入院を必要とする状態であることを示すスコアと、入院から3日以内に実施した手術や処置等を添付することが必須となりました。(詳細は表参照)。医療従事者の業務負担軽減が叫ばれ続けていますが、この改正は結果的に、医事課の負担が増加したと感じている医療機関が多いように思います。
以前より、レセプト審査基準の違い等による加算算定数や加算1と2の割合に地域差があることが指摘されている同加算ですが、この改定がきっかけになり、審査の統一が進むことが期待されます。

一方、新しく追加された重症度スコアや入院3日以内の診療内容が加算要件であることを十分に院内で周知できていないために、以前と比べて算定件数が減少したり、加算の算定割合が減少したりしている医療機関もあるようです。適切な算定に向けて、救急医療管理加算が病院にとって重要な加算であることを院内で共有するだけではなく、算定を進めてほしい医師側と算定件数を気にする医事課との間で算定フローの理解等、十分な話し合いが大切でしょう。

全国の傾向と比べて自院はどうなっているか

皆様の病院では、救急医療管理加算の算定状況をどのように把握されているでしょうか。また、どのように評価されているでしょうか。「適切な算定と言われても、どの程度が適切なのか難しい」と思われるところもあるようです。そこで、中央社会保険医療協議会(中医協)が示している、22年度改定に向けた救急医療管理加算の算定状況を見てみましょう(図1)。左の図は、救急搬送入院患者のうち救急医療管理加算の算定割合、右の図は救急医療管理加算算定患者に占める加算2の割合です。
図2は、今年9月に更新されたレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDBオープンデータ)より、100床当たりの救急医療管理加算の算定状況を都道府県別に示したものです。

先に述べたレセプト審査基準の違いよる地域差のほか、地域の医療体制や扱う診療科等による病院ごとの差異もあるため、あくまで参考とし、自院のデータと比較してみてください。
この中医協の資料やNDBが発表されたことを踏まえ、お客様である医療機関のデータとあわせて経営会議等で示すと「もっと算定していると思っていた」「自院はどれくらいか気にしたことがなかった」という声が上がることが少なくありません。重要な加算であることは知っているものの、意外と自院の現状把握と課題抽出ができていない病院はあるようです。
ぜひ、次のケースも参考に、自院の救急医療管理加算の実態を把握されることをお勧めします。

図1 救急医療管理加算の算定状況

図2 2019年度救急医療管理加算算定件数比較

まとめ

  • 救急医療管理加算は、①直接的な病院収入、②機能評価係数II、③重症度、医療・看護必要度――の3点において重要な加算
  • 加算の算定ルールは院内で共有されているか。職種を超えた理解が大切
  • 全国データと比較し、自院の特徴を把握しよう!

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは、今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:救急医療管理加算を算定せよ!(医師)VS算定したいけど…(医事課)

DPC対象病院での経営会議の一幕。この日のテーマは救急医療管理加算です。中医協資料と見比べてみると、この病院では救急搬送症例に占める加算対象割合が低めであることと、加算2の割合が高めであることがわかりました。機能評価係数IIである救急医療係数の偏差値も高くないことも指摘すると「うちは積極的に算定しています!今の算定件数が精一杯です!」と声を大にして会議にて発言する医事課長Aさん。しかし、会議終了後、こっそり私のところに話にきてくださいました。
「実は、医師が協力してくれなくて困っているんです」とのこと。実情をお尋ねすると、Aさんは堰を切ったように話し始めました。

  • 算定の流れは、医師が加算の1か2を決めた後は医事課でカルテ等を確認しながらレセプトに記載する材料を収集することにしているため、改定後は医事課の仕事量が増加
  • 医師は何でも「加算1」で算定したがるのだが、その割にスコアの入力がなかったり、スコアに必要な検査を実施していない
  • 医師からは「言われないと分からない」と言われるが、いざ指摘すると怒られる
  • 加算1で算定を依頼されたが、金曜日に入院したために入院から3日以内にあたる土日に適切な検査等が行われていないことがあり、加算1で請求したいと言われても医事課としては、査定対象になることが容易に考えられる請求はできない(『ケ 緊急手術』で加算を算定したいと言うけど3日目に手術を行おうというケースもある。『どこが緊急なのか』という指摘は必至だ)
  • そもそも、今年度から開始され医事課の目標管理に「査定・返戻」の件数が入っており、医事課としては査定・返戻はなるべく防がなければならない(増えると怒られる)
  • 医師は救急医療管理加算の算定件数を増やしたいというけれど、救急車のお断りをする医師の間題は医師側で解決してほしい。応需可能な症例を断っていることがある

経営会議という場ではなかなか発言ができなかった思いを一気に吐露したAさんのうっぷんを受け、Aさんの了承のもと「他病院の例ですが……」と院長先生と副院長先生に「このような原因で加算算定が伸びないことがありますよ」とお伝えしました。

すると、麻酔科医である院長先生は「他の先生に言えないんですよね……」と小さな声で答えると、整形外科医である副院長先生は「何か査定が多いって言うんだよね。結局、査定されちゃうんだから改善なんてできないですよ」と、いずれも消極的な言葉が返ってきました。救急を積極的に受けることができない麻酔科医の先生と査定されやすい整形外科の先生にとって、どうも改善の方法が見えていない様子です。

そこで私から「今まで医事課の方とご相談されたことはないのですか」とうかがうと、答えは「ノー」。「医事課からは一方的に情報を与えられるだけで話し合うことはなかった」とのことでした。部門間で問題を見つけて解決策を考えることを提案すると、「その方法は考えつかなかった」と言われ、その後、ぎこちないながらも医師と医事課の間で少しずつお互いが思う課題をぶつけ合う場が開かれるようになりました。(『最新医療経営PHASE3』2021年12月号)

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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