Dr.相澤の医事放談
第20回
「収束」から「共存」に向けた
新型コロナ対策の検討を始める時期

「第5波」と言われた新型コロナウイルス感染症の拡大は、ひとまず一段落しつつある。一方で、ワクチン接種や治療薬の開発・投与も進んでおり、医療現場の新型コロナ対応は新たな様相を見せつつある。重症化予防に一定の歯止めがかかるならば、新たな戦略を検討すべきではないかと、相澤孝夫先生は語る。

「収束」一辺倒の対策は社会的負担が大きい

――新型コロナウイルス感染症の感染者数が全国的に減ってきています。「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」も9月いっぱいでひとまず終了になりました。医療提供体制のあり方も見直しが進みそうです。

2020年の春頃は、とにかくワクチンも治療薬もなく、そもそも新型コロナがどのような感染症なのかもわかりませんでした。そこで医療界が訴えたのは、「感染する人を減らせば当然、入院治療を必要とする患者さんも減る。そのための施策をお願いしたい」という「収束」を主眼に置いた対策でした。
それでも、感染拡大やそれに伴重症化は防ぎきれず、自宅や宿泊施設での療養病床のひっ迫なども見られました。そうしたなかでも、現場の医療従事者の皆様が本当に力を尽くしてくれたのです。

しかし、現在はかなり状況が変わっています。「収束から共存へ」という発想の切り替えが必要というのが私の考えです。そもそも「感染拡大を防ぐ」という社会に投網をかけるような対策は、大きな社会的負担を伴います。相澤病院でも、「子どもが発熱したのでお休みする」という看護師が少なからずいました。他の産業界はもっと深刻で、生活が立ち行かなくなって困窮する人も出てくるでしょう。そうした社会全体を見据えながら対策を検討すべきなのです。

ワクチンと治療薬の浸透で医療現場の様相も変わる

――「共存」とはどういう意味でしょうか。

新型コロナを封じ込めることはかなり難しいけれど、重症化を相当防止できるなら「共存」もある程度は受け入れるべきではないかということです。「重症化を相当防止できる」の根拠は、大きく2つあります。一つは、ワクチン接種が進んで重症化予防がある程度期待できること。もう一つは、抗体カクテル療法やモノクロナール抗体の治療薬が登場したことで、治療の手段ができつつあることです。

ワクチン接種によって重症化が防げるというのは、傾向として明らかに出ていると思います。実際、当院の入院状況を見ると、接種が先行した高齢者層の割合は激減し、ほとんどは接種できていない30~50代です。変異株に対しても、ある程度は重症化を抑えることができるとの見方が支配的です。
現在、ワクチン接種が進んでいますが、さらなる接種者増加をめざして、医療界も取り組むべきでしょう。

治療薬のほうも、当院の医師に聞くと、重度化を防ぎ早期の退院につながっているようです。抗体カクテル療法の治療薬を投与すると、1~2日で改善する人が目立つといいます。「どんどん注射を打っているので、どんどん退院・帰宅しています」とのことでした。現在は使用に制限がかかっていますが、もっと幅広く使える環境にしていただきたいと思います。

ワクチン接種と治療薬の浸透が進むなら、まずは病床回転率が上がります。在院日数が短縮されれば、1床当たりの受け入れ可能な入院患者さんが増えることになります。さらに、そもそも重症患者さんの割合が減れば、医療従事者の負担も軽減されていくことが期待されます。さらに、重症化が相当程度抑えられれば、医療機関のひっ迫も避けられるという道筋が見えてきます。
それを前提とした戦略を練るべきです。「これまで大変だったから、これからも大変だ」とは言い切れないのではないでしょうか。

接種できない人々を守る体制は堅持すべき

――そうなると、社会全体の感染対策も希望が見えてきます。

ただ、強調しておきたいのは、重症化予防の道筋が見えたからといって安易に「全面解禁」に移行すべきではないということです。実際、ワクチンを「接種できない」方々もいます。アレルギーを示す方々や、18歳以下の子どもも接種対象から外れています。この人たちを守るという意味からも、徐々に緩めるべきというのが私の考えです。
それを前提にしてお話しすると、9月28日に菅義偉首相が示した「段階的な制限緩和」がこのまま進めば、人の流れが激しくなる年末年始が一つの正念場になるでしょう。次が来年3~4月、人の異動が多くみられる時期です。この2つを乗り切ることができれば、いよいよ本格的な「解禁」が見えてくるのではないでしょうか。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年11月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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