Dr.相澤の医事放談
第17回
骨太の方針でも明らかになった
医療体制の「グランドビジョン」不在

「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針2021)が6月16日に閣議決定された。国の中期的な指針を示すものとして注目度は高いが、相澤孝夫先生はそうした指針の不在を指摘し、「グランドビジョンを描くべき」と力説する。具体的にはどのような課題があるのか、聞いてみた。

診療報酬による誘導がうたわれている?

――「骨太の方針2021」が閣議決定されました。前回は経済財政審問会議での議論の進め方に異議を唱えましたが、「骨太の方針」も課題が多いようです。

本稿では「グランドビジョン」の必要性を繰り返し訴えてきましたが、政策決定の場にはなかなか届かないようです。社会保障審議会医療部会でも議論しましたが、部分最適を積み重ねるだけでは全体最適は達成されません。全体像を描き、それを構成する「部分」をつめていくという手順が必要です。

骨太の方針は、グランドビジョンどころか、政策の進め方としてはむしろ逆行してしまうのではないかと心配になる記述が散見されました。わかりやすい例が「更なる包括払いの在り方の検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し」です。
診療報酬という「パーツ」を細工して政策誘導を図ろうとしましたが、この20年あまり、それによって医療提供体制は大いに混乱し、良い方向に進んだかというと決してそうではありません。実際、2013年にまとめられた「社会保障制度改革国民会議報告書」では、診療報酬による政策誘導の弊害を次のように指摘しています。

「日本の提供体制への診療報酬・介護報酬による誘導は、これまで効きすぎるとも言えるほどに効いてきた面があり、政策当局は、過去、そうした手段に頼って政策の方向を大きく転換することもあった。だが、(中略)現在の提供体制の形を歪めている一因ともなっている」

――政策論議の積み重ねはどうなっているのか、心配です。

前回、新型コロナウイルス感染症対策のなかで、重症者を診るにはICU、HCU、救命救急病床が適しており、これらを合計すると人口10万人当たり13.5床になるという話を紹介しました。このデータは、全国8カ所の地方厚生局に届けられているデータを引っ張り出し、かつ病床機能報告で各病院から報告されている数値も突き合わせながら集めたものです。それらをかき集めるのはかなり大変で、「すぐに使える」状況になっていませんでした。

データは本来、ある事象を可視化しようという意図があって採りますが、現在は、とりあえず集めておいて注文がきたら公示するという形になっています。つまり、医療提供体制を検討する際の基となるデータがないと言えるのです。これではグランドビジョンも何もあったものではありません。

新型コロナ対応でも付け焼刃的対応がある

骨太の方針では感染症対策にも言及しています。「新たな新興感染症の拡大にも対応するため、平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築が不可欠である」として、症状に応じた感染症患者の受け入れ医療機関の選定や医療専門職人材の確保・集約などについて、「できるだけ早期に対応する」と述べています。

「平時と緊急時で」柔軟に切り替えるというのはそのとおりですが、ここでも、グランドビジョン不在が明らかになっています。迅速かつ柔軟に切り替える仕組みを構築するには「人材の確保・集約」が必要ですが、これについても丁寧な議論が欠かせません。

そもそも、新型コロナは第1~3波くらいの時には感染患者の多くは高齢者でしたが、現在の医療体制は、高齢者への対応を高く評価する仕組みにはなっていません。
日本病院会で議論になったのは、「現在の診療報酬は内科系救急医療への評価が低い」ということでした。今回の新型コロナ対策の一環で救命救急入院料に大幅な点数の上乗せをしていますが、付け焼刃の印象が否めません。内科救急の患者さんを入院させて診療しても、重症度、医療看護必要度の基準を満たせない患者さんが多くなるので、自然と、内科系救急医療からは手を引くようになります。そこで起きるのは「高齢救急患者の搬送困難事案の続出」です。実際、今回のコロナ対応でも、高齢の感染患者受け入れに難色を示す病院が多かったと聞きます。もともと評価が低くて手控えていたところに、急に「診療報酬を手厚くするから受け入れてほしい」と言われても、人もモノもないなか、対応できません。

実際、特別養護老人ホームのような介護施設からの救急搬送依頼が多かったという話も聞いていますが、「介護施設での看取りを推進する」という国の方針があったはず。それとの整合性はどうするのかといったすりあわせも十分になされていません。グランドビジョンを描くとは、そういう大きな方針を皆で共有することなのです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年8月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。