経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第13回
診療報酬改定に向け見直したい!
院内の情報共有フロー
コロナ禍において、今まででは考えられない量の事務連絡が出されています。そのほとんどが新型コロナウイルス感染症関連であり、重要な連絡がいくつも含まれています。医療機関の皆さまにおかれましては、最新の情報収集に苦慮されていることとお察しいたします。今回は、今後も情報が錯綜すると思われる改定に先駆けて、今一度確認したい情報共有のフローについて事例を交えて紹介します。
「令和3年度の係数告示等に係る確認事項」
コロナ禍において急性期病院をざわつかせたニュースの1つが、今年3月10日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で承認された「令和3年度の機能評価係数IIは令和2年度のものを据え置く」だと思います。この背景には、昨年秋、DPC対象病院に向けて送られた「(データ/病床)比及び令和3年度の係数告示等に係る確認事項」があります。
この確認事項は、機能評価係数等の実績を求める期間のなかで新型コロナウイルスの影響を受けていると考えられる期間(新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた等)を調査するという内容で、厚生労働省がこのアンケートをもとに、「病院の状況から下記の3種類のうち最も高い値を用いる」というものでした。
①対象医療機関等に該当する期間を、実績を求める期間から控除した上で、控除した期間と同等の期間を遡及して実績を求める期間とすることにより算出した場合
②対象医療機関等に該当する期間の実績値の代わりに、実績を求める対象とする期間から対象医療機関等に該当する期間を除いた期間の平均値を用いて算出した場合
③通常と同様の取扱いをした場合
当時は、アンケートの調査期間が短かったこともあり、多くの急性期病院では慌ただしく回答されたと思います。
経営陣の確認なしにアンケート調査に回答
ここで、急性期のA病院の事例を紹介します。アンケート調査期間が終了したあと、A病院の経営会議で「どのように回答されましたか」と質問したところ、経営陣をはじめ参加者が目を見合わせました。当時は、このアンケートに回答した結果がどのようになるかわからない状況とはいえ、機能評価係数IIという病院の収入の肝にあたる部分に関する重要なアンケートです。院長は「この連絡は誰かが受けているの」と質問するのですが、誰も答えられない状態です。しばらくの沈黙の後、診療情報部門のリーダーが「そういえばあったかもしれない……」と発言があり、調べることになりました。その結果、A病院に間違いなくこのアンケートは届いていたのですが、担当者レベルで「上に確認しなくても良いだろう」と判断し答えていたことが判明したのでした。
結果として、このアンケートの回答によらず令和2年度の機能評価係数IIを据え置くことになりましたが、もし担当者が回答した内容が正しいものでなければ、大間題になりかねないところでした。
情報共有方法の再確認
病院ではその後、情報共有方法の確認が行われました。すると、ほとんどの厚労省への対応が経営陣への報告なく担当者レベルで判断・処理されていたことがわかりました。もちろん、確認作業が発生することで作業効率が落ちるような細かな内容については事後報告でも良いと思いますが、今回のケースのような、病院全体の収支に関係するイレギュラー対応は、院内で正しく情報共有されるべきだと考えます。
実は、他院でも理事長や院長が把握していなかった事例が見つかりました。皆さまの病院ではいかがでしょうか。今後もコロナ禍におけるイレギュラーな連絡事項が発生することが想定されます。院内でどのような情報をどのような方法で情報共有するのかどうか、再確認されてはいかがでしょうか。(『最新医療経営PHASE3』2021年7月号)
おしらせ
次号より、今までの診療報酬の制度の解説に加え、今回紹介したような病院事例を紹介することにより、院内の経営改善について具体的な支援につながるようにバージョンアップする予定です。どうぞお楽しみに!
まとめ
- コロナ禍という緊急事態では情報共有のあり方が問われる
- 今後も、コロナ禍&2022年度改定に向けてさまざまな情報が錯綜することが想定されるため、院内の情報共有方法について今のうちに確認を!
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。