Dr.相澤の医事放談
第16回
真実を示すデータ・実態に基づいて
医療体制を議論すべき

4月26日に開かれた経済財政諮問会議で民間委員が出した、医療提供体制改革についての提言「社会保障改革~新型感染症を踏まえた当面の重点課題~」が話題になっている。相澤孝夫先生は、この内容以前に、「真実を示すデータに基づいた議論」になっていない点に疑問を投げかけている。

「急性期病床=一般病床」という誤った認識

――4月26日の経済財政諮問会議で民間委員から「社会保障改革~新型感染症を踏まえた当面の重点課題~」が出て話題になっています。「平時の構造改革」として医療機関の機能分化・連携や医療従事者の分散体制の見直しなどを掲げていますが、医療界からは反発が聞かれています。

今回の提言で一番問題だと思うのは、「医療体制の真実を示すデータに基づかないまま議論を進めようとしている」ことです。たとえば、添付されている資料では「急性期」の病床を取り上げ、平均在院日数が16日と、諸外国の5~8日と比べて長いことを指摘していますが、これは「一般病床」のことを「急性期病床」と位置づけてそのままあてはめているからで、実態を示していないことは明らかです。一般病床は実際には、急性期病床、緩和ケア病床、回復期リハビリテーション病床、障害者病床と担う機能は多岐にわたります。たとえば緩和ケア病床を急性期病床と考えている人は誰もいないでしょう。つまり、この提言は実態を反映していない、真実を示していないデータをもとに議論を進めようとしていると考えざるを得ません。
真実を示していないデータをもとに議論すれば、あらぬ方向に話が進むのは当然ですし、結論も実態に即さないものになってしまいます。困るのは病院だけでなく、国民もです。先ほど「急性期病床=一般病床は誤り」というお話をしましたが、一般病床のうち急性期病床が占める割合はせいぜい50%くらいでしょう。

「日病総研」を立ち上げ真実を示すデータを集める

――では、どのようにデータを集め、議論を進めるべきでしょうか。

提言では、資源が分散し「体制が弱い救急医療体制については集約化・大規模化・強化の推進に向けて諮問会議で議論を行う」とも記載されていますが、集約化すべき機能は何かを考えるうえでも、実態を反映したデータに基づいて議論しなければなりません。

新型コロナ対策のなかで重症者を診る病床の整備状況を考える際、重症者を診療できると考えられているのはICU、HCU、救命救急病床ですが、この3種の病床を合算したものが人口10万人当たりでどれくらいあるのか――。全国平均は13.5床ですが、都道府県ごとに見るとかなりばらつきがあります。最も少ない県は6.4床、最も多い県は22.9床です。これでは「適切な医療体制が整備されている」とはとても言えません。

必要なのは、人口10万人当たり何床あれば重症者を診られるのかを議論し、不足するならば整備しなければならないし、そのために必要な人員数も明らかになるでしょう。そのうえで、それを分担する医療機関は地域内で分散させたままでいいのか、2カ所がいいのか、6カ所がいいのかと議論を詰めていくわけです。
その際も、今回の新型コロナ対応の実態を踏まえた議論が求められます。病院4~6床というように分散化しすぎては機能を十分に発揮できないことがわかりました。やはり、1ユニット10床程度、これを2ユニットはご用意いただきたいという基本的な考え方を示し、そのうえで話を進めることから、集約化、集中化という議論が出てくるわけです。このようなデータと実態を踏まえたうえで、どのような方向に進むことが望ましいかを詰めることで、ようやくグランドデザインを描くことができると思います。

このたび、日本病院会では「日病総研」を新たに発足することにしました。当面の主な業務は病院の実態を的確に示すデータ収集・分析になると思います。これは、今回お話ししたような真実を示すデータに基づいた議論を進めたいのですが、公開データでは実態を示すデータがなかなか出てこないからです。それならば、自分たちで集めるしかないのです。

現在は公表され、入手できるデータだけを集めて、医療の真の実情をご存じない方々が数値だけを扱って議論しようとしていることに危機感を覚えていることもありますが、真実を示すデータをもとに議論した結果、もしかしたら私たち病院界の期待する結論にはならないかもしれません。しかし、現在はその「前の段階」で足踏みしている状態であり、これは是正すべきなのです。(『最新医療経営PHASE3』2021年7月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。