Dr.相澤の医事放談
第15回
急な病床確保は困難
青写真を描き協力を求めるべき

新型コロナウイルス感染症は「第4波」の到来が指摘されているが、一部地域で問題になっているのが「病床確保」だ。なかには、感染患者の急増を受けて病院に対して病床確保を求める自治体もあるが、「急に言われても困る」という病院は多い。相澤孝夫先生は「備えのためにも医療体制の青写真を示すべき」と訴える。

急な病床確保には病院は対応できない

――大阪府や東京都を中心に感染者の増加が目立つようになっています。一部自治体では一般診療の制限も視野に入れ、感染患者のための病床確保を要請しているようです。

4、5月号でもお話しましたが、「急に言われても困る」というのが病院側の率直な思いです。実は相澤病院のある長野県松本市でも、年明けに感染患者が急増した際、行政から病床確保の相談をもちかけられたのですが、「急に病床を用意するよう言われても難しいので、せめて2週間くらい前に『患者数が増えそうだから準備を』と伝えてほしい」との要望を伝えました。

急性期病院は普段、90%前後の病床稼働率で運営しています。そこへ唐突に「感染患者が増えたから受け入れてくれ」と言われても、急には対応できません。まず、すでに入院している患者さんを別の病棟に移さなければならないし、それにはご本人やご家族に連絡して納得していただかなくてはならない。患者さんの人数が変われば、病棟の看護師シフトも見直しが必要だし、受け入れる感染患者が中等症以上であれば担当看護師を配置するケースも出てくるでしょう。そこで必要なのが、繰り返しお話している、医療提供体制の「青写真」です。「感染者数の増加ペースはこれくらいだから、入院が必要な患者数はこれくらいで推移するだろう」という見込みのもとで描くのです。別に、精密な写真でなくても、あらかじめ伝えてもらうことが大事なのです。

重症患者用病床の確保からイメージしていく

――具体的には、どのような手順で進めるのでしょうか。

まず、どういう地理的範囲で感染患者への医療提供体制を構築しようとしているのかを明示すべきですが、特に問題になるのが重症者の治療です。人工呼吸器やECMOの使用も想定するなら、一般病棟で受け入れるのは難しい。地域の中核病院や大学病院など、ICUやHCUをある程度、まとまった病床数で備えている病院を軸に検討することになります。

重症患者を受け入れる際の必要病床数は、これまでのデータで大まかには計算できます。厚生労働省によれば、感染者のうち1.6%が重症化しています。そこで、仮に感染者が1日1000人出続けるとすると、16人の重症患者が出ることになります。重症患者はだいたい14日間の治療が必要と言われていますので、それをあてはめると16×14=224、つまり、224床が最低限必要となるわけです。現場の負担を考慮すれば、稼働率は70%くらいに抑えたい。そう考えると、320床を重症患者用に確保しておこうとなります。
この320床を地域内でどう分担していくか――という議論に進むのです。
ただ、そうした病院が地域で1カ所ですと、仮にその病院でクラスターが起きるとその地域の重症患者受け入れ病院がなくなってしまいますから、せめて2カ所は必要と考えることもできるでしょう。

この体制を二次医療圏内で構築できればいいのですが、多くの場合は難しいのではないかと思います。東京都や大阪府などは、ICUやHCUを多く備える病院が特定の地域に集中している傾向があります。そうなると、「都全体」「府全体」で体制を描くほうが合理的となるわけです。そこで、「○○病院さんはICUを20床有しているので10床、新型コロナ患者用に使わせてください」「△△病院はICUが6床なのでちょっと難しいですね」「◇◇病院は8床だから2床、ゾーニングして使わせてください」という話し合いが可能になります。
さらに言えば、重症患者が人工呼吸器を外せる状態にまで落ち着いたとしても、すぐに退院させるわけにはいきません。中等症患者病床を確保する際は、そうした患者さんの分もカウントする必要があるのです。
このように地域を設定し、そこではどのくらいの感染者が出て重症化し、それを受け入れる病床は何床で、それを担う医療機関はどこで――というかたちで青写真を描くわけです。

こうした議論には、病院経営に精通した人たちの知恵が必要なはずなのですが「都道府県行政の担当者から病院側に相談をもちかけられた」という話はあまり聞きません。松本市の場合は話し合いの場があり、「急に言われても困る」という議論につなげることができましたが、病床確保で混乱している地域でそうした話し合いがどこまで進んでいるのか疑問です。今からでも行政と病院がひざ詰めで話し合うべきでしょう。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年6月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。