Dr.相澤の医事放談
第12回
行政の体制づくりに向けた真のリーダーシップを期待したい
新型コロナウイルス感染症との闘いが続くなか、民間病院の協力のあり方をめぐって議論が起きている。一部テレビ番組で「民間病院の協力が不十分」といった指摘が出たほか、感染症法改正案では正当な協力を拒んだ病院については病院名を公表できる項目が盛り込まれている。相澤孝夫先生の考えを聞いた。
合理的根拠に基づかない分断助長の動きは問題
――新型コロナウイルス感染症対策に関する議論で、「民間病院は公立病院に比べて病床数が多いけれど、その数に見合った感染患者数を受け入れていないのではないか」という議論が起きました。
事実に基づいた科学的、合理的根拠に基づいてお話しいただくならともかく、感覚や間違ったデータに基づいて話を進めるのは止めていただきたいというのが、私の考えです。感染患者を受け入れられる機能を持つのはICUやHCU、一般病床になるでしょうが、一口に「一般病床」といっても機能はさまざまです。緩和ケア病床や回復期リハビリテーション病床、障害者病床も「一般病床」です。それらを一緒くたにして分母に据え、感染患者を分子にして計算しているのですから、実態を全く反映していないと言えます。
また、300床以上の病院であれば1棟を丸ごと感染者用の病棟に切り替えるといった対応も考えられるかもしれませんが、20~09床クラスの病院で感染患者を受け入れるのは、動線を分離させたりスタッフ体制を整備したりといったことが難しいのです。日本病院会と全日本病院協会、日本医療法人協会で実施した調査でも、病床規模による受け入れの差は確かに認められましたが、病床規模を区切って設置主体を見比べても、差異はありませんでした。
だいいち、日本の医療は多様な設置主体がお互いに特徴を活かしながら役割分担を進め、連携しながら地域医療を構築してきました。これは他の国にない特徴で、世界的にも評価される質の担保を図ってきたわけです。それをぶち壊し、分断と対立に持ち込む言説は、非常に問題だと思います。
青写真がないままでの協力要請には戸惑うしかない
――一方で、感染症法改正案では患者受け入れを病院に「勧告」できるようにし、「正当な理由」がなく協力を拒否した病院については病院名を公表できるようにする項目が盛り込まれました。
現在はまさに「緊急事態」です。このようなときに新しい法律をつくって2、3年後の医療計画策定に備えるというのは、いかがなものかと思います。とにかく、現行法のもとでも行政がリーダーシップをとって医療提供体制を整備するほうが先決でしょう。
具体的には、これまで二次医療圏ごとに提供体制を整備してきたのですから、まずはそれに基づいて重症、中等症、軽症・無症状の患者数に応じて必要な病床数を算出すべきです。重症者は人工呼吸器やECMOが必要でしょうから、ICUやHCUが必要、中等症は7対1体制でなければ難しい、状態が落ち着いて陰性判定などの条件を満たしたならば、13対1~15対1の一般病床で受け入れられるのではないか――と、患者の状態に応じた病床の機能を定め、それに基づいて患者数に応じた病床数を算出するのです。
そのうえで、どの医療機関がどの機能の病床を何床用意できるかをヒアリングし、A病院のICU病床は3ユニットあるとするなら「1ユニットは重症感染患者専用にしていただきたい」と、それこそ「協力を要請」するわけです。それらを積み上げていけば、地域内での病床の過不足が明らかになります。どうしても地域内で病床を用意できないのなら、隣の医療圏と協力して整備することも検討すべきでしょう。
こうした病床整備の基本的な考え方を私は「青写真」と名づけていますが、「青写真」を国が示し、それに基づいて都道府県が実行していくことが求められます。病院にも「このような医療提供体制を構築したいのでご協力をお願いします」と呼びかけることができるでしょう。
そこで仮に拒否する病院が出てきたとしても、こうした「青写真」があれば「正当な理由」かどうかを判断できます。現在はとにかく、青写真も具体体制づくりいままに病院に丸投げし、うまくいかなければ罰則を科すという流れになっています。何をどのように構築するのかが示されなければ、協力のしようもないのです。
今こそ、行政にはそうしたリーダーシップを発揮し、分断を助長する動きにはくぎを刺していただきたいです。
――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年3月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。