実践的看護師マネジメント
最終回
型どおりのマナーにとどまらない
心を伴う研修を

あいさつも丁寧でお辞儀の角度もきちんとしていて、とても丁寧な言葉使いなのに、「なんだか感じが悪い」という人がいるものだ。振る舞いは丁寧だが、心が伴っていない尊大な人のことを感懃無礼と呼ぶ。奥山美奈・TNサクセスコーチング代表取締役は型にとどまらない心を育てる指導が重要と強調し「人としてのマナー」の大切さを説く。

前回はあいさつにお辞儀、物の指し示しに物の授受、そしてメール文書に名刺交換といった、看護師にも身につけさせたいビジネスマナーの型をお伝えしました。今回は、それらのマナーが身についていたとしても人から疎まれてしまう人の「あり方」について深く考えてみます。

慇懃無礼な人とは、マナー(形)はしっかりとしているけど結局は失礼な人のことを指します。あいさつも丁寧でお辞儀の角度もきちんとしていて言葉使いも申し分ないのに「何だか感じが悪い」。これらの人のことを慇懃無礼と言い、辞書では「うわべは丁寧に見えて、その実、尊大なさま」と表現されています。私は、妙にマナーを強化した(?)人にこそ、慇懃無礼な人が多いように思います。丁寧な立ち居振る舞いや敬語をしっかり使っているのに、何だか非常に無礼な人。こういう人は「人としてのあり方」に問題があるのではないかと思っています。

現場ではこういう人はよく患者や家族から「丁寧に言えばいいってもんじゃない!」「謝っているくせに全然心がこもっていないじゃないか」という類のクレームをもらっていることが多く、「ちゃんと悪いと思ってんの?」とか「その言い方、私をバカにしてるの?」などと上司を怒らせていたりします。つまりは、言行不一致。「言っていること(丁寧)と思っていること(無礼)」が合っておらず、相手を大事に思っていない本心が相手に伝わっている状態です。マナーとは「形」を通して相手を不愉快にさせないための道具です。私たちの心は相手に見えないので、目に見える「形」にすること(マナーという型を守ること)で「相手に敬意を表しましょう」という目的で「マナー研修」があります。

マナーがある程度身につくと、今度はそれが「形だけ」にとどまり心が伴はない、逆に失礼な「慇懃無礼」な人が登場します。少し言葉遣いのところから考えてみます。敬語とは実に便利なものです。

「ちょっと、そっち行ってよ」を敬語にすると「失礼ですが、もう少しそちらに移動していただいてもよろしいでしょうか」となります。

同じことを表現したのに、後者は丁寧に聞こえて好印象です。しかしある意味、ここが落とし穴になります。丁寧語を使えばかなり「キツイ」ことも言いやすく、きちんとした印象を与えることができるので、文句のつけようがない。けど、心がこもってないと「何か感じ悪い」のです。

マナー訓練を受けていなくて失礼な対応になっているスタッフには訓練をすればいいだけですが、慇懃無礼な人は、「心のありさま」が表出しているために起こるので、なかなか直りません。慇懃無礼な人が多い組織ではマナー訓練ばかりではなく、「心を育てる」教育こそが必要です。

私は数年前、関東の大きな組織の本部で接遇委員会の取りまとめ役をやっていました。ある病院の接遇委員が「うちは師長らの接遇が悪いから、敬語のテストやらせて点数を公表したのよ。そしたら5F病棟の師長は54点(赤点)!それで部下の接遇がどうとか注意できないでしょ」と笑っていました。その人は介護福祉士でした。私は、「同じ病院に勤める職員に対するその介護福祉士の接遇こそがよくない」と思いました。

「そのやり方ってどうなんでしょうか」と私が質問すると、何と「敬語のテスト結果を公表しなさい」と研修を受けている元CAの〇〇先生が指示しているというのですから驚きでした。確かにその病院の師長の言葉遣いは良くないと有名でしたが、自分の部下の前で赤点をさらされては、スタッフへの威厳も保てなくなるでしょう。今の時代、それはパワハラで名誉毀損にもなりかねません。その彼女の接遇と「あり方」に問題がありますし、まずは、そうした慇懃無礼な人を育てている元CAの〇〇先生の「あり方」がよくないと思います。接遇が良いのにこしたことはないでしょうが、私たち医療人は医療や看護のプロで専門職です。敬語のテストは赤点でも、看護技術は素晴らしいかもしれません。師長の立場を尊重し、プライドを傷つけないように「敬語が学べる機会をつくる」のが一緒に働く者のありようではないでしょうか。

私が接遇委員会の顧問をさせてもらっている病院では、新人に7時間のマナー研修を実施していますが、師長さんにも参加してもらっています。新人よりも師長さんのほうが一生懸命に学んでくださいます。なぜか。昔は、今のように研修等は充実していませんでした。就職したとき合同で入職式があり、そこでちょっとした講師らしき人が来て「患者さんへの接し方で気をつけること」程度の話を聞き、オリエンテーションを受けたらもう実務――。そんな時代でした。そうした時代の師長たちの頑張りがあったからこそ今の組織の安定経営があり、教育もしっかり受けられるようになったと感謝できる心を育てていくことが重要ではないかと思います。

14回にわたる連載をお読みくださいまして、誠にありがとうございました。続きは弊社メルマガにて配信させていただきます。info@tn-succ.bizまでお問い合わせくださいませ。(『最新医療経営PHASE3』2021年3月号)

奥山美奈
TNサクセスコーチング株式会社代表取締役
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。

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