実践・医師の働き方改革
第8回
働き方改革による成果と課題

コーチングで実現!病院・地域をいきいき活性化する

地方の病院は「健康経営」と「かかりつけ医病院」をめざそう

「健康経営銘柄」や「ホワイト500」の企業に象徴されるように、令和の時代は「働きやすい環境を整えてくれている会社」や「今から伸びていく会社」に人が集まる傾向にあり、昭和の時代のような、大きな会社で有名な会社に人が集中した時代とは、隔世の念があります。

しかも、どこが伸びている会社か否かについては、今の時代、ニュースや新聞だけでなく、インターネット等でもどんどん情報がアップデートされています。我々産業医からすると、一般企業における「健康経営」アピール合戦は近年激しさが増しており、残業・喫煙対策などが驚くようなスピードで改善され、どの企業も健康度合いが年々高まっていることを肌で感じています。

これは医療業界においても「他岸の火事」ではありません。今や研修医や若い看護師などの医療者は、若い人同士で盛んに情報交換を行っています。令和の時代、今までは知り得なかったような地元での病院の評判であっても、SNS等を通して、全国の若い人達の間で周知の事実になっているということもないとは言えません。

地方の病院でいえば、救急診療に強く依存しない病院経営を行うことも、今のうちから対策を講じておく必要があります。例えば生活習慣病関連の疾患に関しては、医療スタッフの力を上手に活用しながら、患者教育の機会を設けて行動変容を促し、合併症の発症予防のための啓蒙活動を率先して行っていくことが、地域医療を支える「かかりつけ医病院」として、今後はより強く求められていくと考えます。

予防医療から救急医療まで、包括的に医療支援してくれる医療機関であれば、地域の方々もより安心してその地域で暮らし続けることができると思いますし、そんな病院であれば、多くの患者さんが今後も長く通院されることになっていくでしょう。

働きやすい環境づくりは、今から始めてもまったく遅くありません。病院経営者や幹部クラスの先生方がコミュニケーションスキルを学べば、予想以上に臨床現場の雰囲気がガラッと変わる可能性があります。そして、そのよい「雰囲気」は若い医療者達に確実に伝わっていくでしょう。職場の雰囲気が良くなれば、離職者が減り、病院の医療レベルも上がっていくはずです。

さらに、そのよい影響は地域の活性化にもつながっていきます(図)。今まで以上に、皆さんの医療機関に活気が出てくれば雇用も増え、経済的にも地域を盛り上げられます。今や、医療機関はその「まち」における一大産業なのです。我々の医局では、この「雰囲気」が変わったことが、予想以上に若い医師を刺激し、今では毎月2~3人の研修医が当科をラウンドしてくれています。そして、3年連続して静岡病院から研修医が当科へと入局してきています。これまでの取り組みは、厚生労働省関連のWebサイト「いきいき働く医療機関サポートweb」(いきサポ)からも取材を受け、すでに掲載されています。

全国のあらゆる地域の医療機関において、「医師の働き方改革」にのっとった対応が2024年春までに実現できれば、これまでの時代とは異なった、いきいきと働きやすく、かつ医療レベルが高い「臨床現場」を日本中で実現できるのではないでしょうか。

図 医療と地域活性化との関係

https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/casestudy/issue-detail?issue-id=208

経営層が率先して医師が能力を発揮できる環境を整備

素晴らしい臨床能力を発揮している優秀な医師たちが、「医師の働き方改革」によって、過剰に疲弊することなく活躍し続けることができる体制が続くことを願っています。そのために、病院の経営層の方や現場のリーダーの方々が積極的に音頭をとって、医療スタッフや地域の患者さんの支援も得ながら、現場がその臨床能力を遺憾なく発揮できる環境を整え、これからも日本の医療を支えていってもらえればと思います。

「誰も行きたがらない」「定時で帰れない」「収益も上がりにくい」といったようなシチュエーションは、今の日本のどんな地方における病院でも、多分にあることだと思われます。
この連載でご紹介した我々の取り組みでは、大学医局から診療科長として派遣された私が、「誰も行きたがらなかった」「定時で帰れなかった」「収益も上がりにくかった」といったような、当時の一診療科の状況を、コーチングを用いて数多くのスタッフからフィードバックももらいながら、少しずつ改善していった様子をご紹介しました。

もちろん私のやり方が100%正しいというわけでは決してないと思いますが、多くの方が「不可能だ」と思われるような、地方の医療機関における医師の働き方改革にも希望はあり、各医療スタッフが一緒になって力を合わせていけば、「みんなが行きたがる」「みんなが定時で帰れる」、なおかつ「収益も高まる」診療科や医療機関へと変貌することができます。そして、その好循環は継続していくことにもなるでしょう。

そうすることによって、日本中どこで暮らしていても、今まで以上にクオリティの高い医療が享受できるようになっていくのです。是非、「令和の時代」に勝ち抜くために「医師の働き方改革」を始めてみませんか!!(『最新医療経営PHASE3』2021年2月号)

佐藤文彦(Fumihiko Sato)
Basical Health産業医事務所 代表
1998年、順天堂大学医学部卒業。2006年、同大学大学院内科・代謝内分泌学卒業。12年、同大学内科・代謝内分泌学准教授。順天堂大学付属静岡病院糖尿病・内分泌内科長など、糖尿病の足の最先端分野での診療・研究を長年行っていた。16年、日本IBM株式会社専属産業医を経て、18年より現職。日本糖尿病学会研修指導医、日本コーチ協会認定メディカルコーチ。