これから始める病院原価計算
第14回
評価の視点を変えると現場を可視化でき
モチベーション向上につながる

経営に関する分析データの開示には工夫が必要だ。レセプト情報で把握できない場合でもひと手間かけて算出することで、現場の士気を高め、スタッフのモチベーション向上につながる。やむを得ず不採算となる部門については指摘せず、現状を示したうえでポジティブなメッセージを伝えよう。

具体的な情報がない部署は評価軸を定めることが重要

検査室やリハ室、薬剤室といった部署別の原価計算は、入外別や診療科別、病棟別などの計算単位と異なり、レセプトに具体的な部署を特定できる情報がありません。診療識別コードを用いて検査・画像診断など大まかな情報を取得することはできますが、検体検査と生体検査では対応する部署が違いますし、CT室とMRI室でも同様のことが言えます。

しかし、こうした状況であることを理由に原価計算の対象にしないのは、現場が経営を良くしようとする意欲を削いだり、そういった取り組みを適切に評価してあげられなかったりするデメリットが生じます。

こうした場面では評価軸を定め、時系列の推移を確認していくことが有効になります。図1は、福岡県に所在する病院における内視鏡室の原価計算結果を表したものです。収入は内視鏡室で実施する手技に限定した診療収益を算出しており、費用は、内視鏡室に所属している医師・看護師、医療技術員の人件費だけを抽出しています。

同部署では、2018年度の半ばに非常勤医師、常勤看護師・非常勤看護師がそれぞれ1人ずつ退職して人件費が減った一方、残ったスタッフによって収入を維持・向上させることができました。その後の人事考課では、こうした努力が認められ、19年度は、全職員が病院平均の昇給率を超える給与改定となりました。

不採算部門の結果開示は士気を下げないよう配慮

病院運営では、地域の医療需要に対応するため、不採算であることを前提に医療提供しているケースがあります。たとえば、救急医療を提供する部署では、あらゆる患者の受け入れができるよう、患者の有無にかかわらず診療体制を整えています。このような部署の原価計算では、2つの課題があります。

1つ目は、収入の把握が困難なことです。ほとんどの病院のレセコンは、救急搬送から入院となり、その後に退院した患者の収入は主診療科に割り振られます。特殊な方法でデータを加工して運用する病院もありますが、いずれにせよ、正確な判別は困難です。2つ目は、原価計算の結果が悪くなってしまうことです。多くの病院は、日中の需要量に合わせて人員・設備体制を構築しています。そのため、需要量の減る休日や時間外に同じ水準の医療を提供しようとすると、自然と不採算になります。
このようなやむを得ない事情があったとしても、赤字の分析結果を見せられた現場スタッフの士気は下がります。分析結果を開示する際は、そういった気持ちに配慮することが求められます。

やる気を引き出すことが分析結果を開示する目的

筆者の経験上、不採算であることを指摘することで危機感を抱き、気持ちを入れ替えるというケースはほとんどありません。分析担当者の役割は、現状を示しながら明るい未来を想像させることです。

図2は、山口県の病院において、18年度に救急搬送から入院につながったケースのうち、過去1年に受診歴のなかった患者の情報を抽出したものです。ご覧いただくと、①当該入院の限界利益(診療収益-医薬品費・診療材料費)として4.1億円を得ているだけではなく、②退院後の外来・入院受診によって、20年11月までにプラス1.3億円の限界利益を確保できていることがわかります。

過去につながりのなかった患者と救急を通してつながりを築くことができ、その後も継続して関係が続いている事実を現場に示したところ、「救急受け入れを断っていたら、すべての収入が他院に流出していた」とポジティブにとらえ、現場のモチベーション向上につながりました。同院では、20年度に救急応需率が3.4ポイント増加し、90%を突破しています。(『最新医療経営PHASE3』2021年2月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課
おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成