経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第7回
看護必要度データは大丈夫?
データの質を見直そう
新型コロナウイルス感染症禍において2020年度診療報酬改定の経過措置が見直され、20年9月1日に厚生労働省保険局医療課が発出した事務連絡により、改定された施設基準のうち、一部について半年間の経過措置が延長することが示されました。そのうち重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)を見ていると、新しい測定方法によるデータは医療機関によりさまざまです。今回は、看護必要度データを中心に、提出データの質についてお話しします。
看護必要度は急性期病院であまり問題視されていない
2020年度診療報酬改定において、看護必要度は認知症患者の評価がなくなったことから、いわゆる認知症患者割合が高いことで重症度割合の施設基準をクリアしていた「なんちゃって急性期病院」にとって厳しい改正となりました。ところが、新型コロナウイルス禍である程度「不要不急でない」入院が増えたことから、多くの急性期病院では、重症度割合の施設基準を超えることは難しくない状態となっています。さらに冒頭で述べたとおり、施設基準の経過措置が延長されたため、看護必要度データの精度について追及する機会が得られにくく、実際にお客様先でうかがっても「看護必要度は重症度割合の基準がクリアしているためデータの中身は気にしていません」という言葉が返ってきます。
看護必要度を例に挙げましたが、施設基準等、医療機関としてあるべき結果がある程度得られていれ
ば、基本的にその詳細について見直す機会はおのずとなくなってしまうものです。当然、新型コロナウイルス禍では病院経営として対策すべき優先順位がありますので、データを見直すことが最優先ということにはならないと思いますが、まったく見直す機会がないままに過ごすことで、将来的に改善する労力が大きくなってしまっては元も子もありません。特に看護必要度等改定が行われたものについては、自院で正しいデータが蓄積されているかどうか早いうちに見直すことで、より正しいデータが蓄積できる院内環境を整えることが可能です。
院内で見直されないデータ なかには不自然なものも
20年度の半年間のデータが複数病院分集まってきたため、新しい評価方法となったB項目の4つ(移乗、口腔清潔、食事摂取、衣服の着脱)について病院間比較を行いました。特に特徴的な不自然なデータについて、いくつか紹介します(表)。
特にB項目は根拠となる記録がなくなったため、後から記録を見直して整合性を確認することが難しくなったことは確かです。しかし、その日のうちにダブルチェックを行うことで精度を保つことは十分に可能です。
また、システムが要因で事実と異なるデータが蓄積されてしまうケースも散見されます。20年度診療報酬改定から、職員対象の看護必要度評価研修が必須ではなくなりました。だからこそ、今一度評価の手引きしっかり見直すとともに、データを振り返ることをお勧めします。
データは見られている!看護必要度以外も要注意
看護必要度をはじめ、他のDPCデータ等、国に提出しているデータは見られています。DPC制度は、診療報酬改定ごとにデータに基づいて日当点や入院期間が検討されていることはご承知のことと思いますが、たとえば看護必要度も近年、データ分析が根拠となる改正が行われています。皆さまが提出しているデータが制度をつくっているということを考えると、データが正しく蓄積されているかどうかという点について、今一度見直されてはいかがでしょうか。
今回はアナリスト目線であり、看護必要度オタク(?)の視点から、話題になりにくいと思われるテーマを題材にしました。皆様の病院経営を考える際の一助となれば、幸いです。(『最新医療経営PHASE3』2021年1月号)
まとめ
- B項目のデータは病院によりばらつきあり→病態が表れているかどうか確認を
- 看護必要度IIはB項目のみ看護師がチェックを行うスタイル(記録なし)に変化したため、記録がないので振り返りの確認は困難→その日のうちにダブルチェック!
- 近年の診療報酬改定はデータ分析結果を反映しつつある→DPCはじめ国に提出するデータは見られていることを意識しよう!
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。