これから始める病院原価計算
第13回
経営分析の担当者が現場からの信頼を得るには
相手に応じた情報開示が有効

経営分析は、単に正確な数字を示せばいいというものではない。公開する相手に合わせて、必要な経営情報を提供することで信頼を得られるようになる。分析する際に役立つのは粗利額であり、そこから数字を掘り下げていくことで減収要因がわかり、改善につながる。

単純な結果の開示だけではモチベーションが低下する

2020年3月以降、多くの病院では医業収益が前年実績を下回っており、利益ベースでみると赤字になる傾向が続いています。
原価計算をするまでもなく、利益が減って当たり前と言える状況では、従来と同じ方法で結果を開示しても有効活用につながらないケースがあります。
悪い結果ばかりを示すことは、現場のモチベーション低下につながる危険もあります。分析結果を公開する際は、相手の気持ちに寄り添った対応を心がけましょう。

見る相手の立場によって求める経営情報は異なる

経営陣は、病院全体における収入・費用・利益の増減トレンドについて、大まかな原因を把握したいと考えています。細かい分析結果よりも改善余地に対する関心が高いため、要点だけに絞った情報提供が求められます。
現場の管理者は、経営陣が注視している内容に応じて、適切な回答を行うための情報をほしがります。改善可否にかかわらず、現状についての説明を要求されるため、経営陣よりも深く掘り下げた結果を必要とします。経営分析の担当者は、こういった相手の特性に応じた情報提供を意識すると、信頼関係を築きやすくなります。

必要な情報を絞り込めば収集の手間を省略できる

図1は、神奈川県内に所在する病院における20年度上半期の実績を示したものです。診療収入から医薬品費、診療材料費、医師給与費を差し引いた値(=粗利額)が大きい5診療科の粗利額を横軸に、同値の前年比を縦軸にしています。同院における20年度上半期の医業利益は、前年比でマイナス2.8億円でした。これに対し、5診療科の粗利額前年比を集計するとマイナス2.05億円となるため、利益減少要因の73.1%は、5診療科の粗利額によって把握できることになります。こういった数字をあらかじめ整理しておくと、効率的な情報収集が可能になります。

数字が変化した要因は現場が最も理解している

図2は、粗利額の減少幅が最も大きかった脳神経外科の科目別計上額をまとめたものです。19年度と20年度上半期実績を比較すると、粗利益が減った要因は入院診療収益の減少であることがわかります。

図3は、脳神経外科における症例数上位5疾患の入院件数と、1入院当たり診療収益の前年比を表しています。バブルサイズは疾患ごとの入院診療収益の減少額を示しており、合計すると6748万円になります。同科における入院診療収益の減少額は9538万円であったため、そのうち70.7%はこれらの疾患の影響と言えます。

この情報をもとに脳神経外科の診療部長に確認したところ、症例数が10以上減った疾患は予定入院の延期に伴い生じており、1入院当たりの診療収益は、感染リスク低減のために早期退院を促したことが原因とわかりました。こうした分析により、同部長は診療科ヒアリングにおいて、経営陣に減収要因を明確に説明できました。10月は延期していた予定入院を積極的に実施したことで、今年度初の前年実績超えを達成しています。(『最新医療経営PHASE3』2021年1月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課
おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成