実践的看護師マネジメント
第12回
すべてを「リソース」に!
コロナ禍での研修の実際と新人育成のあり方

新型コロナウイルス感染症による影響は研修にも及んでいる。小倉第一病院でもそれは同様だが、いち早く研修続行を決定し、「ZOOM」などインターネット技術を駆使して継続してきた。すると、かえって理解度が高まるなど、「災い転じて福となす」現象が起きているという。

収束の兆しが見えないコロナ禍で、不安な状況をどうとらえて進むのか――。こうした状況を受け入れ、力強く歩んでいる方々もいます。
コーチトレーニング受講者に身につけてもらう「コーチングスキル」の一つとして、「この出来事をどんなリソースにしますか」という質問があります。リソースとは「資質、財産や使えるもの」の総称ですが、ピンチを乗り越えていく人や組織には、この状況をどう「リソースにしていくか」という前向きな姿勢が備わっています。
今回は、この状況をうまくリソースに変えて進んでいる小倉第一病院の取り組みをご紹介します。

コロナ禍でも研修続行トップの素早いリーダーシップ

同院での多部門の研修やコーチ認定トレーニング等にかかわらせていただくようになって10年になります。中村秀敏院長がめざすのは「学習する組織」。同院の教育システムや研修の充実ぶりは広く知られており、卒後教育をしっかり受けられる病院という評判を聞いて多くの新人看護師が就職してきます。新人研修は80時間のICT研修や由布院での宿泊研修、外部講師によるものと盛りだくさんで、ほぼ年間を通して行われます。「共有の時間」「共有の空間」「共有の体験」という「3つの共有」を通して人と人の絆は深まると言われますが、同院では同期が「チーム」になり徐々に「病院の仲間」になっていく仕組みが「教育研修」という機会によりしっかりと構築されています。それだけに、病院の大きな強みでもある教育研修をコロナ禍でどう進めるのか、悩まれたことと思います。

同院の出した結論は「続行」。海外研修や学会参加はもちろん、院内外の研修や勉強会参加の機会が豊富な同院は、新型コロナ感染者が増えだし、多くの病院や組織で研修を見合わせている当初から、いち早くソーシャルディスタンスを取り、感染対策を徹底して研修を続行しました。自粛要請が出て以降は、遠隔会議システム「ZOOM」を用いた研修を導入しています。

ZOOMとグーグルフォームで適時アンケートを実施

現在、同院での私の研修も「ZOOM」と個人の携帯電話を活用し、かつグーグルフォームのアンケート機能で研修の理解度を確認しながら進めています。対面時よりも、個人の「考える力」や「自分自身に向き合う力」が養われるのではないかとも思うこともあります。

新人研修では、理解度確認のためにアンケートを実施しています。私にとってもアンケートの回答がタイムリーに確認でき、とても便利です。結果が棒グラフで可視化され、結果を参加者と画面共有できるのも魅力です。以前、私は携帯電話で別のアンケート聴取できる仕組みを使っていましたが、使用料が結構かかっていました。グーグルフォームは、無料でアンケートやテストが作成できるので活用しない手はありません。

具体的な質問項目としては、以下のようなものがあります。

▽表情管理とは何ですか
▽なぜ大事だったのでしょうか
▽自分自身の表現管理力の自己評価
▽自身のアイコンタクト度の自己評価
▽あいさつや発信力の自己評価

接遇研修後にも、振り返りのためにアンケートを聴取しています。

効果はテキメンです。同院を訪れると、私を見つけた新人さんが近づいてきて、元気に、そして爽やかにあいさつをしてくれます。経済産業省が定義する「社会人基礎力」のなかで挙げられている「発信力」は、大抵の病院の新人さんは弱いものですが、同院の新人さんは入職時にしっかりと「発信力」を身につけていると実感しています。今年は接遇研修も「ZOOM」だったため心配していましたが、対面ではないうえに、今は感染予防のためにマスクを着用しているので、意思疎通にいつも以上にオーバーアクションが必要で例年よりも逆に「発信力」や「反応力」が磨かれているようにも思います。

近年はストレス性の疾患の予防のため、看護協会等から新人研修にも「ストレスマネジメントの視点」を盛り込むように推奨されています。私も研修内容に「ストレスとは何か」「ストレス・コーピング」「適応機制」などを入れています。特に研修では、ここ数年の「ライフイベント」を振り返り、ストレス値を合計するという箇所に力を注いでいます。
研修時に参加者に加算した値を発表してもらうのですが、これは他の参加者である同僚のストレス状況を把握し、関心を持ち配慮できるようになるという目的もあります。休憩時間にストレス値の高かった同期に、仲間同士で「大変だったね」などと声をかけているところもよく見られるそうです。ほかには「あなたの病院の理念は何ですか」「その理をあなたはどんなふうに行動化しますか」などのアンケートの問いも入れて、「自分の力で考える」ことを促しながら、少しずつ病院の仲間になれるようにしかけています。

「災い転じて福となす」と言いますが、同院ではマイナス要因もリソースして人材育成の強化につなげています。(『最新医療経営PHASE3』2020年12月号)

奥山美奈
TNサクセスコーチング株式会社代表取締役
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。

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