これから始める病院原価計算
第12回
ウィズコロナ時代は病院の収入に見合った
身の丈経営が求められる

新型コロナウイルス感染症の流行をにらみながらの病院経営が求められている。患者数は減少しても増える見通しが立たないなかでは、支出を減らすしかない状況にある。これまで”セオリー”とされていた医療材料などの価格交渉では些少で、大鉈を振るう覚悟を持たなければならなくなっている。

都道府県別の医療費は感染者が多いほど減少傾向

厚生労働省が10月14日に公開した医療費の動向調査によると、2020年4月から6月にかけての医療費は前年比で92.3%でした。月別にみると、4月は91.2%、5月は88.1%、6月は97.6%となっており、5月をピークに下げ止まっていることがわかります。
一方で、国民健康保険中央会、社会保険診療報酬支払基金が公開している7月診療分の実績を確認すると、レセプト点数の前年比はそれぞれ95.8%、94.8%となっており、前月より低くなっています。6月は、前年に比べて平日の回数が多かったため単純比較は不適切かもしれませんが、少なくとも、安定した回復基調と言い切れる状況にはなっていません。

また、医療費の前年比は地域によって差があります。図1は、6月30日時点での新型コロナウイルス感染症陽性者数と、4月から6月における医療費の前年比を都道府県別に示したものです。ご覧のとおり、陽性者数が多いほど減少の度合いが大きい傾向にあります。GoToキャンペーンの影響などで感染者が増えている地域の医療機関では、再び減少に転じる可能性も想定しておく必要があります。

患者数が減少する状況で収入を維持するのは困難

地域の患者数が減少しても、シェア率を高めることで収入を維持することは可能です。しかし、それを実現するには、相当の競争優位性が必要になります。筆者は、そういった裏づけをもたない病院の方から、在院日数の延伸や外来化学療法の入院移行などについて相談を受ける機会が増えています。

図2は、ある病院の依頼に基づき、大腸がんの患者に対して同じ薬剤の組み合わせで実施した化学療法の件数をまとめたものです。全体の38.5%にあたる15件は外来で実施されていることがわかります。図3は、入外別の1件当たり限界利益(診療収益-医薬品・診療材料費)を示しており、入院のほうが14万9000円高い結果になっています。これらの数字をもとに試算すると、外来化学療法を入院に移行した場合、223万5000万円の増益となることが見込まれます。

ただし、このような取り組みは医療の質の観点から推奨できません。また、現行の診療報酬制度に最適化した施策は改定でマイナスに作用することもあります。その他にも、加算の届出や算定率向上などで単価を高めることはできますが、患者数の減少を補えるほどのシナリオを描くのは困難であることが予測されます。

心理的抵抗感と向き合い費用を削減する必要性

これまでの病院経営は、医療費の増加を背景に収入を伸ばすマネジメントが主流でした。現在は、収入に見合った体制に変化していくことが要求されています。
費用の最適化というと、医薬品や診療材料の価格交渉など、痛みの少ない取り組みから始めようとするケースが多くを占めます。大事なことではありますが、卸売業の利益率は1%前後と言われており、削減できる余地はわずかしかありません。メーカーとの直接交渉やコンサル・共同購買サービスの利用などによって下げられたとしても、医薬品費・診療材料費が費用に占める割合は2割程度であるため、減収分を補うほどの効果は期待できません。

抜本的な改革のためには、給与費に目を向けることが推奨されます。厚労省の雇用統計調査を見ると、19年における医療・福祉業の離職率は年間14.4%となっています。給与費は費用の50%前後を占めているため、稼働に応じて欠員補充を見送るだけでも減収額の半分は補える計算になります。

このように、ウィズコロナ時代の病院経営は、心理的抵抗感と向き合いながら、身の丈経営を実現していくことが求められます。(『最新医療経営PHASE3』2020年12月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課
おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成