Dr.相澤の医事放談
第9回
外来医療における「主治医」と「かかりつけ医」は役割が異なる

菅義偉首相が10月26日の所信表明演説で、「オンライン診療の恒久化」を掲げ、話題となっている。相澤孝夫先生は「オンライン診療の是非よりもまず、外来診療のあり方について全体像を描くべき」と訴える。具体的には「主治医」と「かかりつけ医」の明確な区分けが必要と指摘する。

外来診療のあり方を医療界で描くべき

――菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で「オンライン診療の恒久化」に言及し、現在、新型コロナ感染症対策の一環で時限的に認められている「初診からの解禁」をあらためて表明しました。

デジタル化は避けられないでしょうけれど、それ以上に大事なことは、「医療界として何をしたいのか、デジタル技術をどう役立てるのか」というビジョンを明確に描いておくことです。それがないままデジタル化を議論しても、おかしな方向に流れてしまう気がしています。
オンライン診療も同様で、単に是非を問うよりも、私は、オンライン診療の導入が進もうとしている「外来診療」のあり方こそ、医療界が突き詰めて議論すべきだと思っています。

具体的には、外来診療では「かかりつけ医」と「主治医」の2つの異なる役割の医師がいて、それらを明確に分けたほうが良いのではないかというのが私の考えです。「かかりつけ医」とは、目の前の患者さんの特定の疾患や臓器だけでなく本人の全体像、それこそ家族や社会背景、働き方まで把握して診療する医師です。一方、「主治医」は特定の病気をもった患者さん、たとえば循環器の疾患なら循環器の専門医が診るというふうに、特定の疾患に対応する医師がイメージできます。
こう整理することで、両者の役割分担も明確化します。

ある患者さんが大学病院に入院して肺がんの手術をし、退院後も引き続き専門医に診てもらいながら抗がん剤の治療を続けることがあります。この場合の専門医は「主治医」でしょう。
一方、抗がん剤治療を続けるなかで、患者さんに「他の悩みがあったらいけないから、家の近くの診療所の先生を紹介するので、普段はそこにかかってはどうですか」と勧めることがあります。このときに「家の近くの診療所の先生」としてイメージするのは「かかりつけ医」と言えるでしょう。

救急車で搬送された場合、そこで専門医が「主治医」として治療するけれど、「今回は主治医として診たけれど、普段から診てもらえる『かかりつけ医』を持ったほうがいいですよ」と紹介することもあるでしょう。

「かかりつけ医」はどこにいるのか

――病診連携も進展しているようですが、いかがでしょうか。

まだまだ連携は足りません。その背景には、今お話ししたように、病院からかかりつけ医に紹介しようとしても、そもそも「かかりつけ医」がどこにいるのかわからないのです。実際、「かかりつけ医」という看板を掲げた診療所はありません。
現在、総合診療専門医が年100~200人誕生していますが、地域医療に必要な人数をまかなうまでに増えるには、かなりの時間を要するでしょう。しかし、特に地方は今、高齢化を迎えており、かかりつけ医を必要としているのです。

その観点からも、私は新たな専門医として育成しなくても、現在、各地で腕を振るっているベテラン医師に担ってもらうことが有効と思います。専門医として活躍している医師でも、最先端の医療にキャッチアップして、いつまでも専門医で居続けるというのは難しい。いずれは総合的な診療に移行していくはずですし、開業したり、地域密着型の中小病院で勤務したりするようになれば、「自分の専門領域しか診ない」などとは言ってられなくなります。私自身も同じで、もともと消化器内科でしたが、病院を継いだ後はあらゆる臓器の疾患を診るようになりました。

これを後押しする仕組みも必要です。大型病院で専門分野に特化して働いてきた医師に再訓練の機会を提供し、それまで培ってきた知識と経験を活かしながら、新たな役割を果たしてもらえるよう、スムーズにシフトしていける体制こそ必要でしょう。

――そうした仕組みが整ったうえで、はじめてオンライン診療の議論ができるわけですか。

かかりつけ医は私たちが世界に誇るべき「日本の医療文化」であり、全力で守るべきだと思います。1つの病院に専門治療からかかりつけ診療まで集約化する仕組みが、本当に患者さんにとって幸せかどうか。田舎で暮らしていても、安心できるお医者さんが近所にいてくれる――。そうした文化を守りつつ、より効果的に医療を発展させていくほうがいいと思います。その手立てとしてオンラインを有効に活用することこそ、検討すべきです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2020年12月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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