これから始める病院原価計算
第11回
原価計算の結果を参考に医療の質を高めていくと
大幅な増益につながる可能性

医療安全、医療の質を高めることは病院経営にとって重要なのは言うまでもないが、その一方で、収入につながらなければその取り組みはコスト、減収になる。医療の質を高めながらコスト削減をいかに進めていくか。追加コストを発生させない予防策を考えたい。

新型コロナで表面化したゼロリスク前提の報酬制度

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の特例として、オンライン診療の解禁や救急医療管理加算の引き上げ、2020年度改定の経過措置延長などを進めています。また、診療報酬以外でも、医療従事者に対する慰労金の支給や、感染者の受け入れを目的とした空床確保料の補助、その他の支援事業などを通して、医療機関が感染者を受け入れる体制の構築に取り組んでいます。

しかし、病院団体が実施した調査によると、感染者を受け入れている病院のほうが経営状況は悪化しており、必要十分な対策が講じられているとは言えません。さらに深刻なのは、新型コロナ受け入れ病院における院内感染です。感染リスクをゼロにすることは困難であるにもかかわらず、外来・病棟閉鎖などで大幅な減収となった病院への補償は不十分で、さらなる支援が期待されています。

収入につながらない施策を費用対効果の視点で分析

コロナ対策に限らず、現行の診療報酬制度は、患者の健康に悪影響を与えるリスクを下げるメリットが認識しづらい状況にあります。医療安全に係る診療報酬として、加算や減算、施設基準に明示されているケースもありますが、そうでない場合は、収入につながらない取り組みにどのくらいの費用をかけるべきかを検討するための指標がありません。
このような場面で有効なのが、医療安全の観点から避けたい事象の発生によって生じた追加コストの検証です。患者別の原価計算結果を用いると、入院後に発生したイベントの有無に応じた収益性の違いを把握できるため、何らかの対策によって予防できた際の費用削減効果を試算できます。

図1は、中国地方に所在する病院において、解離性大動脈瘤の手術で入院した患者のSSI(術後創部感染)発生率を示しており、図2は、発生有無に応じた1症例当たり変動費(医薬品費+診療材料費)を表しています。ご覧いただくと、SSIが発生した場合は1症例当たり28万円の追加コストが生じていることがわかります。すべてが予防可能とは言い切れませんし、その他の要因が影響している可能性も否定できませんが、リスクの最小化を目的とした施策の費用対効果を検討する際の参考にすることかできます。

医療の質を追求した結果増益につながるケースも

図3は、入院中に嚥下障害を発症した件数が年間3症例以上あった診断群分類(誤嚥性肺炎を除く)をまとめたものです。縦軸は①発生件数、横軸は②嚥下障害が発生した患者と発生しなかった患者の1症例当たり変動費の差を示しており、バブルサイズは①と②を乗じた値を表現しています。

股関節大腿近位骨折では、1症例当たり14万円の差がついており、年間で5件発生しているため、トータルで70万円のコストが増加していることがわかります。グラフ内に含まれる8つの診断群分類を集計すると、費用増加額は276万円となっており、発症を予防できた場合は、その分のコストを削減することができます。

また、医療の質を高める取り組みは管理料や指導料、加算の新設や拡充によって増収につながるケースもあります。過去の改定を振り返ると、排尿自立指導料、抗菌薬適正使用支援加算などが新設されており、20年度改定では、栄養サポートチーム加算や摂食機能療法加算の拡充か行われています。

医療の質を高めながらコストを削減する取り組みに診療報酬が上乗せされると、大幅な増益につながります。相乗効果を狙って実現することは難しいかもしれませんが、効果的な取り組みを進めていれば、そのような恩恵が受けられる可能性を高めることができます。(『最新医療経営PHASE3』2020年11月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課
おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成