実践的看護師マネジメント
第11回
「他人に勝つこと」がモチベーションになる看護師の育て方

「あの人より自分は上か下か」こんなふうに「他人に勝つこと」がやる気の源になっているスタッフがよくいますが、「あまりいいことではありません」と奥山美奈代表取締役は言う。他者に負けれは不満が募るし、周囲の人はみんなライバルでは、いずれは燃え尽きてしまうからだ。「他人との競争心」によるやる気は長続きしない。今回は、副作用のないやる気を引き出す「自分との競争」について解説してもらう。

「困る同僚」の存在でやるに火がつく看護師

毎日が戦場のような医療現場。ストレスフルな状況を乗り越えるには励まし合う仲間が必要です。スタッフ同士は競争心メラメラの関係ではなく、ともに支え合う仲間で、時によきライバルでなけれはいけません。「あいつ仕事できるなあ。自分も負けられない」と、「さわやかなやる気」を引き出し合うのがよきライバル関係です。スタッフ同士がそんな関係になるようマネジメントできたら最高です。

しかし、どんな職場にも「ムキになって仕事をして、他のスタッフより優秀だとアピールしたい」タイプの人がいるもの。こんなふうに「他人への競争心がやる気のもとになっている人」は調和を乱します。
具体的にみてみます。部下の田中看護師は感染委員会の所属。業務改善委員の佐藤看護師はマイペースすぎて委員の仕事が滞りがち。そんなとき田中看護師があなたに「佐藤さん、また委員会の仕事やっていなかったんですよ。他部署に迷惑かかるといけないので代わりにやっておきました。本当に佐藤さんには困ります」と報告に来ました。田中看護師は困っているというよりは、なぜかやる気満々に見えました。こんなとき、皆さんならどんな対応をなさるでしょうか。

「他人との競争心」をやる気の源泉にさせない

ロでは「困っている」と言いながら表情はイキイキ。こういう状態を「言行不一致」と言います。「競争心が根底にある」というサインです。きっと田中看護師は、佐藤看護師を使って「自分は仕事ができる人間だ」とアピールしたいのでしょう。「人の株を下げて自分の株を引き上げる」のは競争心からのやる気を持つ人がよく使う方法です。ここで「田中さんありがとう。よく気がつくね」なんて褒めてしまうと、田中看護師のこうした言動はエスカレートしていく可能性が大です。こんなときは、「田中さんありがとう。佐藤さんの成長のためにも、今度は仕事をやってないと気がついたときは彼女に一声かけて彼女にやらせてくれると助かるな」と論します。そして「確か感染委員会は次の学会で研究発表の予定だね。前回も田中さんの研究は素晴らしかった。今回はそれを超えてほしい。来週、進捗状況を報告にきてくれるとありがたい」と、自分自身の仕事を優先するように促します。こうした人の多くは優秀でエネルギーが有り余っていることが多いので、目標をグンと引き上げることも有効です。

「田中さんは将来、外国の学会での発表も夢じゃないと思うよ」というように、「ちょっと高すぎるかな」と思うくらいの目標を設定してあげると、他人にかまっている余裕はなくなります。承認欲求が強い人が職場にいるときは、そのスタッフの競争心を他人ではなく自分自身に向けられるようにマネジメントすることが、職場の調和のためにも大切です。他人ではなく自分自身と競争をすることは「対自競争」と言われます。「対他競争」から「対自競争」へと導くことが田中看護師を成長させるのです。

「自分との競争」は副作用なくやる気を高める

上司や先輩が「〇〇さん、仕事の精度が上がったね」「田中さんの声かけのおかげで佐藤さんは委員会の仕事が早くなった」というふうに、日々のスタッフの成長度合いを承認することを「絶対評価」と言います。誰かと誰かを比べるのは「相対評価」です。絶対評価が不足しているのに相対評価される機会が多いと、「対他競争」をしたがるスタッフが増えます。絶対評価は普段の部下の仕事ぶりをしっかり見ていないとできません。なので絶対評価をするということは肯定的注目を与えることとイコールです。肯定的なストロークを与えられ自己肯定感が高まっている部下は、自然と「自分との競争」に向かいます。

よく「褒めて伸ばせ」と言いますが、実は、褒めるという行為が対他競争をあおることもあります。大勢のなかで褒められると人は優越感を覚えます。いきすぎると「人前で褒められたいから動く人」にしてしまうことがあります。なので、人を褒めるときは基本的に1対1がオススメです。

「ライバルの存在」は方便にすぎない

目標に向かって頑張ろうと思っても人間は弱いもので、疲れた、眠い、遊びたいなどいろんな欲求が出てきます。でも、ライバルの顔を思い出すと「負けてたまるもんか」と奮起することがあります。そうこうしながらやっとの思いで自分の目標を達成したとき、つまり、自分との競争に勝ったときにはじめて、人間は自分を律することこそが難しいのだということ、本当の敵は自分自身であったのだということに気づきます。そして、ライバル(他者)はそんな弱い自分を奮い立たせるために存在してくれている方便なのだと気づきます。
自分との競争に勝つことで余裕が生じ、あらためて周囲に感謝できるような人になっていくのです。(『最新医療経営PHASE3』2020年11月号)

奥山美奈
TNサクセスコーチング株式会社代表取締役
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。