Dr.相澤の医事放談
第7回
「感染が不安で受診しない」は本当か
「新しい受療行動」に備えるべき

新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで病院の患者数が大きく減少し、経営課題になっている。その理由としてしばしば挙がるのが「病院に行きたくても感染への不安を感じる」というものだが、相澤孝夫先生は「新しい受療行動が始まっていることが大きい」と指摘し、そのための提供体制、診療報酬体系を検討すべきと訴える。

患者数が元の状態に戻らない理由とは

――新型コロナウイルス感染症拡大の影響で病院の患者数が外来、入院とも減少しています。理由の一つは病院に行くと新型コロナを移されてしまうので心配」というものです。

確かに病院に行くことへの不安はあるでしょう。8月24日の社会保障審議会医療部会に出席した際に示された「新型コロナウイルス感染症に関する国民アンケート」(サーベイリサーチセンター)によると、「特病や風邪などで病院に行きたくても感染への不安を感じる」との回答が67%を占めていました。
ただ、内訳は、「とても不安を感じる」が36%、「やや不安を感じる」が31%でした。「やや不安」であれば、自分の病気の状態と不安を天秤にかけて受診に行こうとする人も多いはず。その不安を解消することは医療機関の大事な責任ですが、そう考えると「不安が強くて病院には行きたくない」という人は決して多くないとも思えます。

むしろ、患者数が戻らない背景は、「新しい生活様式」に基づいた「新しい受療行動」が始まっていることにあると思っています。そうであるならば、それに適した医療提供体制を模索すべきでしょう。

――「不要不急の受診は控えたほうが……」というムードが一時期ありましたが、それが常態化しているということでしょうか。

控えるというより、もっと身近な「かかりつけ医やかかりつけ薬剤師に相談しよう」という意識が高まっているのではないでしょうか。あるデータでは、緊急入院患者の減少が著しいのは気管支炎や下気道の感染症、あるいは呼吸器系疾患の重症でないケースなどだそうです。また予定入院でも白内障、慢性の冠動脈疾患などが目立つと聞きます。「不要」とまでは言いませんが、「どうしても入院しなければ治療できない」というケース以外の入院が減っていることは確かでしょう。

日帰り手術級でも重篤な患者と同じ対応

――新しい受療行動が始まっているならば、医療提供側もそれに見合った体制が求められそうです。

現場の医師にとっても悪いことばかりではありません。入院患者に対しては、疾患の状態にかかわらず医師はかなりの労力を割きます。入院当日、術前、術後、退院当日と様子を見に行く必要があるし、患者やご家族にもそのつどご説明する必要があります。重篤ならともかく、本来なら「日帰り手術」ですむような症例でも同じように対応しなければいけません。「先生のお話をうかがいたい」と言われれば、看護師に任せっぱなしというわけにはいきません。それがなくなるだけでも違うでしょう。

――医師でなくても対応できる相談事も多いということですか。

慈泉会でも訪問診療や訪問看護を行っていますが、ご相談の大半は看護師がうかがっています。「これは先生に診てもらったほうがいい」というときにこそ、医師が対応すればいいのです。看護師がスクリーニングの役割を果たしてくれればそのほうが効率的でしょう。受診控えによる早期発見の遅れなどを懸念する声もありますが、どこまで根拠があるのか、疑問もあります。ただ「心配だから」といって現状を放置するのはいかがなものでしょうか。急性期病院のなかには患者さんをこのまま退院させるのは負担が大きいという理由で在院日数が延びているところもありますが、本当に患者さんのことを考えてのことなのか。再考が求められていると思います。

ベスト・プラクティスをめざせる診療報酬体系に

――そうした形で整理していくと、在院日数短縮による病床稼働率の低下、ひいては収入減などが懸念されます。

現行の診療報酬のあり方も見直すべきです。そもそも、DPC/PDPSによる支払い方式にも課題かあります。対象病院の「平均」をもとに入院期間I、IIなどを定めてますが、これでは「ベスト・プラクティス」を追求する気は起こりにくい。もっと治療初期に点数を重点的に配分し、あとは薄く配分する手法を検討してもいいのではないでしょうか。急性期医療は、①できる限り早く、②できる限り苦痛なく、③できる限り入院前の状態に戻す――が理想と考えています。少なくとも①に関しては、診療報酬上の評価は十分ではないと思います。

現在、受診控えによって診療報酬の支払い全体金額は例年より低くなっているようです。その低くなった部分は緊急避難的な手当てに回すことを求めていますが、一方でもっと「配分すべきところに配分する」ことを考える時期にきているのではないでしょうか。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2020年10月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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