実践・医師の働き方改革
第4回
コミュニケーションスキルは経営者や管理職に必須な時代に

コーチングで実現!病院・地域をいきいき活性化する

コミュニケーションスキルは経営者や管理職に必須な時代に

昭和·平成という時代は医療機器や新薬など、まさに目覚ましい医療の産業革命が次々に起こり、我々現代人はその恩恵を数多く享受しながら、長く健康的な生活を送ることかできるようになってきました。
たた、糖尿病ももちろんそうですが、いかなる分野の画期的な新が登場したとしても、対象となる患者さんが自らの治療にきちんと向きあってくれない限りは、望ましい結果が得られることはありません。そういう状況は、さまざまな医療現場で働いている多くの医療者の方々が日々感じていることだと思います。

もちろん、今後も医療機器や新薬は次々に開発されていくでしょう。しかし、いくら開発か進んでも、患者さん達のQOLが向上したかというと、必ずしもそうではないということに近年、医療者だけでなく、一般の方々も気づきはじめてきています。

令和時代のリーダーに求められる「寄り添う」姿勢

私が医師になった20年程前は、とにかく「延命」が日本医療現場でのキーワードでした。ご家族は「1日でも長く生きてほしい」の一心で、俗に言う「スパゲティ症候群」と言われた、点滴から経管栄養から人工呼吸器まで、あらゆる「管」につながれた両親や親族を目の当たりにしました。
一方で、患者さんが高齢であればあるほど「スパゲティ症候群」になってまでの延命を望まれるご家族は、20年前に比べてかなり減ってきたように感じます。「本人にとって無理やり眠らされた状態のままで、痛い思いをしていろいろな管につながれて、コミュニケーションが全く取れないのでは、家族として何の意味があるのか。」そういった思いから、きちんと最後までお互いに会話ができる状態であってほしいと願うご家族が増えきたと感じます。

そういう意味では、かなり高度な進歩を遂げてさた医療界において、令和の時代は、医療機器や新薬といった目に見える医療道具以上に、「コミュニケーション」という目に見えない医療道具が非常に重要視される時代であると言えるのではないでしょうか。多様な価値観・人生観をもった患者さんの治療に当たる我々にとって、これからの時代により強く求められていくことは、「目に見えない医療道具をきちんと扱える医師·医療者」だと言えるのかもしれません。
私自身も、実はコーチング(図)を学んだことで、以前は患者さんに戦いを挑む「挑戦」のような診療スタイルから、その方の人生観に「寄り添う」ことを意識しながら、お互い穏やかな空間の中で診療を行うスタイルに変わってきました。

価値観の多様化は当然、患者さんだけではなく、現場の医療者にも起こっています。私も研修医1年目当時は、シニアレジデントから「患者を診察してから、絶対24時間以上空けるな」と常日頃から強く言われ、結局年間360日以上研修病院に出勤して、必死に頑張っていたように思います。ただ、時代は大きく変わってきており、今の若手医師は、そういった体育会系の勤務を良しとはしてくれません。日常の臨床だけでなく病院内の体制づくりにおいても、「コミュニケーションにおける医療革命」が必要であると私は思っています。身を粉にして働くことが美学とされた昭和のような時代とは異なり、仕事以外にも成し遂げたいこと、実現させたい夢をもって人生を送っている若い医師や医療スタッフ一人ひとりに、きちんと耳を傾け、患者さんをよくするという同じ方向に一緒に向き合いながら、医療機関として果たすべき責務を果たしていく。令和の時代の医療機関のリーダーにはそんな姿勢が求められているのではないでしょうか。

コミュニケーション不全で若い人とのすれ違いが問題化

最近、医学生などの若者と話をしていますと、コミュニケーションスキルについて大変興味を持っている人が非常に多いことがわかります。しかも、彼ら若い医学生や医療者からすると、「病院経営者や管理職レベルの医師であれば、コミュニケーションスキルについて当然学んできているし、もちろんコーチングなどについても詳しいものだ」と(勝手に)思っている人が大変多いと感じます。
一般企業であれば、こういったコミュニケーションスキルを持っていない上司たと気づかれてしまうと、あっという間に若い人達からそっぽを向かれ、あっさり退職されてしまったり、時には「パワハラ」と訴えてくることさえあるかもしれません。

この要因の1つとしては、若い人達は子どもの頃から何かしら「コミュニケーションスキル」を学んだり、触れる機会があったことが挙げられます。一方で、昭和の時代に育った我々40歳代後半以降の世代の医療者にとって、そのようなスキルはほとんど教えてもらうことは皆無だったのではないでしょうか。ただ、こういった「すれ違い」が、実際に医療機関での雇用関係の中にも如実な問題として浮き彫りになってきているのも実情です。そういったことを痛感しておられる病院経営者や管理職の医師が増えているのに伴い、最近は、本格的にコーチングを学んでおられる医療職の方々もどんどん増えてきているのも事実です。(『最新医療経営PHASE3』2020年10月号)

佐藤文彦(Fumihiko Sato)
Basical Health産業医事務所 代表
1998年、順天堂大学医学部卒業。2006年、同大学大学院内科・代謝内分泌学卒業。12年、同大学内科・代謝内分泌学准教授。順天堂大学付属静岡病院糖尿病・内分泌内科長など、糖尿病の足の最先端分野での診療・研究を長年行っていた。16年、日本IBM株式会社専属産業医を経て、18年より現職。日本糖尿病学会研修指導医、日本コーチ協会認定メディカルコーチ。