これから始める病院原価計算
第10回
コストをかけずに利益を増やせる診療プロセスの見直し

入院患者数の減少、さらにコロナ禍が追い打ちをかける形で、増患が見込めない状況となっている。コストをかけす収入を増やす方法として注目すべきは診療単価の向上だ。診療プロセスを見直すことで改善効果が見込め、利益増につながることもある。

単価を上げるための施策は期待どおりの効果を上げやすい

厚生労働省が8月28日に公開した医療費の動向調査によると、2019年度における全国の入院件数は1568万件となっており、18年度に比べ0.3ポイント減少しています。都道府県別の内訳をみると、33都道府県が同様の傾向を示しており、このうち23都道府県は2年連続で減少しています。
また、20年から25年にかけては、高齢者数の伸び率が鈍化することが見込まれています。これらのことに鑑みると、増患を目的とした施策は、次第に機能しなくなると考えられます。

こういった状況で有効なのは、単価を上げるための取り組みです。外的要因の影響を受けやすい集患施策と異なり、単価向上施策は期待どおりの成果を上げやすいという特徴があります。
また、医療の透明化が進んだ現代では、プロセスやアウトカムに対する評価が充実してきています。改善活動によって増えた収入が、そのまま利益になるケースも珍しくありません。

救急縮小により高まったプロセス見直しの重要性

ここからは、大分県に所在するDPC病院における、診療プロセス見直しによる改善効果を試算した事例を紹介します。同院では、医師の減少に伴う救急医療の縮小により、救急搬送からの入院数が前年比で100件近く減っていました。筆者は、予定入院の比率が高まっていることを踏まえると、収益性の観点から診療プロセスを見直すことの重要性が増すと考え、具体的な検討作業を開始しました。

図1は、予定入院患者の入院初日に、DPC入院料に包括される診療行為を提供している情報を抽出し、出来高換算した金額を診療科別に集計したものです。ご覧いただくと、消化器内科、循環器内科、脳神経外科だけで病院全体の78%を占めていることがわかります。これらの診療科における入院診療収益のシェアは44%なので、相対的にみても高いことが確認できます。

このような情報を診療科別ヒアリングで示したところ、救急入院が多い、もしくはその比率が高い傾向にある診療科ほど、入院前検査による経営的なメリットを認識していないことがわかりました。そこで、DPC制度の説明会を行い、細かいデータを示しながら改善の余地を確認したところ、病院全体で年間500万円以上の改善が見込める結果となりました。

休日リハビリ導入により1入院当たり単価が向上

次に、DPC算定患者でも出来高請求可能なリハビリテーションについて、介入時期を早めることによる効果を分析しました。術後リハの実績がある予定手術入院の患者情報を抽出し、手術日からリハビリ開始日までの日数を確認したところ、3日目から実施しているケースが散見されました。この要因を掘り下げたところ、土日にリハビリを実施していないことによって、手術を実施した曜日によって収益性が異なる状況になっていることかわかりました。

図2は、術後リハ実施患者が多い整形外科で、年間の予定手術件数がトップだった人工関節置換術(膝)について、手術日翌日から起算した3日間のリハビリ収益をあらわしたものです。月曜日に手術した場合は3日間合計で1万4350円のリハビリ収益を上げていますが、水曜日だと1万992円、金曜日だと4674円になっていることがわかります。この情報を経営会議で伝えたところ、医療の質の観点からも「休日リハを導入すべき」という意見が挙がり、運用することになりました。その後の経過を確認すると、同術式における1入院当たりのリハビリ収益は4000円増加しています。

このように、診療プロセスの見直しは、コストをかけずに利益を増やす手段として、原価計算の観点からも推奨されます。(『最新医療経営PHASE3』2020年10月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課
おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成

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