Dr.相澤の医事放談
第6回
緊急事態の今は経営支援が必要だが
同時に自院の方向性も検討し直すべき
新型コロナウイルス禍のなかで、多くの病院が苦境に立たされている。相澤孝夫先生はそうしたなか、まずは病院の経営支援を実施すべきと訴えるが、一方で、病院に対しても自らの果たす役割を再考すべきと呼びかける。
「新型コロナ対応」に限定した支援では不十分
――新型コロナウイルス感染症対策にあたって、医療界は大きな負担を強いられました。国ではさまざまな形で支援策を講じていますが、どのように見ていますか。
2020年度第2次補正予算では、新型コロナに対応した病院を中心に大規模な補助金を用意しています。これ自体は歓迎できますが、気をつけなければいけないのは「新型コロナに対応した病院さえ救済すれば十分」と考えてはいけないということです。
新型コロナ禍のダメージの受け方は病院によって異なります。たとえば、新型コロナ患者を受け入れなかった病院でも、通常医療の受診抑制がかかったことなどから、前年比で大幅に収益が落ちています。
さらに、感染患者を受け入れた病院でもその多くは減収減益の傾向が見られます。これはなぜかというと、通常の診療のための病床で稼働率が落ち込み、新型コロナ受け入れによる収入の上乗せ分を上回る減収が出てしまい、全体として減収減益で推移しているからです。つまり、減収要因は「新型コロナを受け入れたこと」とは別にあるとさえ考えられるのです。そこへ「新型コロナ対応」に焦点を絞った補助金を用意しても、十分ではないことは明らかです。新型コロナ対策はもちろん重視すべきですが、それだけではなく、通常の診療を円滑に回すための支援策も必要です。
さらにいえば、診療報酬の上乗せすら決して十分とは言えません。4月以降は重症、中等症の新型コロナウイルス感染症患者に対する診療評価を2倍、さらには3倍と上げていただきましたが、新型コロナが拡大しはじめた2~3月の患者対応に関してはそうした措置はとられていないのです。このあたりは、もっと現場の苦労に報いる施策が求められます。
低金利で融資を受けて現行体制で返済できるか
――低金利での融資枠も用意されるなど、資金繰り支援も見られます。
繰り返しますが、こうした支援策が重要であることは論を待ちません。現在はとにかく緊急事態ですから、まずは緊急支援を実施して、通常医療を継続できるようにすべきです。
一方で、病院側もこれを機に自院のあり方を見直すべきだとも考えます。しばしば「現在は新型コロナ禍で大変だけれど、ここを乗り切れば元に戻る」という議論が聞かれますが、私は賛成できません。むしろ、「今後10~15年に起こる事態が、新型コロナ禍によって今、起きた」と認識すべきではないかと思います。
低金利の借り入れで当座をしのいだとしても、現在の医療提供を漫然と続けたままで、その返済は可能なのか……。
たとえば「自称・急性期」の病院が多いとされていますが、今後、日本の大半の地域では高度急性期医療の需要は先細っていきます。それを担う機能を備える病院も絞られていくでしょう。そうしたなかで、いつまでも「われこそは高度急性期」と、従前の経営スタイルにしがみついていいのか。
本当の地域ニーズに目を向け、それに応える体制を整えることも検討すべきではないでしょうか。地域で在宅療養を続ける患者さんの緊急時の受け皿や、高次機能病院から退院してきた患者さんの在宅復帰までの、中継地点的な役割を果たす病床の必要性が高まっています。
そうした病院の入院単価は、せいぜい3.5万円程度で、急性期病院のそれと比べれば見劣りするかもしれませんが、それに適した医療機能や人員配置を考えれば、それなりの利益は出るはずです。何より、地域にはそうした機能を果たす病院が求められているのです。
実際、私が経営する慈泉会のなかでも、在宅療養中の高齢患者を積極的に受け入れている地域包括ケア病棟や訪問系医療・介護は、新型コロナ禍の間も経営的には堅調に推移しています。医業収益は多少下がったとしても、費用を抑える体制に改めて、利益を確保する病院経営も考えるべきです。
現在起きている事態は、一時的に病院を揺るがしている「リスク」ととらえるか、それとも、病院のあり方を見直す「チャンス」ととらえるか――。経営者の姿勢が問われているとさえ言えます。
繰り返しますが、現在は未曾有の緊急事態ですから、とにかく診療報酬等による支援が必要ですが、それと同時に、それぞれの病院は自院の進む道を検討する機会でもあると認識すべきです。
――ありがとうごさいました。(『最新医療経営PHASE3』2020年9月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。