これからはじめる病院原価計算
第9回
費用削減に固執せず
現場の意向に沿った経営改善プランを策定

原価計算では結果を伝えるだけでなく、改善につながる具体的な数字を示すと効果的だ。また、原価計算は費用削減を目的とせず、利益を上げるための収入確保の目標にすることで、現場のモチベーションアップにもつながる。

赤字診療科をなくしても黒字になるとは限らない

原価計算で赤字の診療科があると、「廃止したほうが良いのか」と聞かれることがあります。しかし、実際にそのような場面を想定すると、プラスになるケースはほとんどないことがわかります。

筆者が定期的に訪問している兵庫県の病院では、2019年度における循環器科の診療収益が6.13億円、費用は7.15億円で、1.02億円の赤字となっていました。このような状況で同科を廃止することを想定した場合、診療収益は0円になります。一方で、それに伴い減少する費用は医薬品費、診療材料費などの変動費と、医師給与費や医療機器のリース料など一部の固定費に限定され、それ以外の費用は発生し続けます。
赤字の部署が得ていた収入よりも、廃止によって減少する費用が大きい場合は収支が改善しますが、そうでなければ、病院全体の利益がさらに減ることになります。

増患による改善効果は疾患により大きく異なる

原価計算の結果を伝えるときは、現状を伝えるだけでなく、何をすればどのくらい利益が改善するのかを示すと効果的です。ここからは、新規入院患者の確保による利益改善効果を試算した事例を紹介します。患者数が増えても対応できる体制が整っていると仮定すると、入院診療で得られる限界利益(診療収益―変動費)は、そのまま利益の増加につながります。

図1は、循環器科で診療収益の多かった上位5疾患の症例数と、1症例当たりの限界利益を示したものです。ご覧いただくと、疾患によって1症例当たりの限界利益は大きく異なることがわかります。予定入院の割合が高く症例数の多い狭心症と、緊急入院が中心の急性心筋梗塞では、増患に向けた取り組みも変わります。このような情報を明確にしておくと、集患に取り組む疾患の選択と、改善効果の試算に役立ちます。

1ベッド1日当たりで必要な限界利益を算出

次に、固定費と外来の限界利益が一定であるという前提で、1ベッド1日当たりに必要な限界利益を計算する方法を紹介します。
同院における19年度の実績を確認したところ、固定費は①65.8億円で、外来部門の限界利益は②16.4億円となっていました。この数字をもとに試算すると、入院部門で③49.4億円(①-②)の限界利益を得なければ病院全体で赤字になってしまうことがわかります。仮に病床数が300床だとすると、1ベッド1日当たりで必要な限界利益は4万5114.16…円(③÷300床÷365日)となります。

図2は、循環器科の疾患ごとの入院延べ患者数当たりの限界利益を示しています。これを見ると、徐脈性不整脈と心不全は前述の基準値を下回っていることがわかります。このような情報を示しながら具体的な損益分岐ラインを示しておくと、診療単価向上を目的としたパスの見直しなどを促進することができます。

疾患別延べ患者数あたりの限界利益

現場スタッフの意向に沿う改善プランの策定が重要

ここまで、入院患者の確保と診療単価の向上を促す原価計算の活用方法を紹介してきました。「原価計算といえば費用削減」というイメージをもっていた方からすると、少し意外だったかもしれません。しかし、筆者の経験上、原価計算がはじめから費用削減目的で使用されることは少なく、まずは、どのくらいの収入を確保すれば目標とする利益を達成できるかという使い方をするケースが多くを占めます。
費用の削減を全面に出すと、不必要な警戒心を抱かれる場合もあります。導入初期は、現場の意向に沿った施策の提言から開始し、取り組み過程で費用削減の必要性が認知されてから提言を始めたほうが、スムーズな活用につながります。(『最新医療経営PHASE3』2020年9月号)

小川陽平
株式会社メハーゲン医療経営支援課

おがわ·ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成