経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第2回
機能評価係数II公開! 効率性係数に注意しよう
2020年6月17日の中央社会保険医療協議会総会(第462回)にて、20年度の機能評価係数IIの医療機関別の詳細データが公開されました。機能評価係数IIは、DPC対象病院において入院収入のベースとなる重要な数値の一つです。今回は、なかでも次期診療報酬改定を見据えて、効率性係数にフォーカスします。
機能評価係数IIは病院収入の何にあたる
毎年発表される「DPC病院の成績表」とも言える機能評価係数IIですが、まずは、収入構造を理解しましょう。
図は、DPC病院の収入構造を示したものです。機能評価係数IIは医療機関別係数のなかの一つで、病院の過去の実績に応じて相対評価された係数です。2020年度の機能評価係数IIであれば、18年10月から19年9月までのDPCデータが実績として計算されていることになります。
係数の数値が小さく見えるためか「一生懸命に努力しても、そんなに大きな変化がないのであれば意味がない」という誤解からか、あまり重視していない経営層の声も聞きます。しかし、そもそも医療は大きな利益が出るビジネスモデルではないため、純粋に利益が上がることを考えるとこの係数は重要です。
機能評価係数IIは6つの係数で構成される
表1に、全部で6つある係数の一覧を示します。
特に、効率性係数と救急医療係数は改善努力が数値に如実に表れます。この2つの係数は、病院群すべてを含めて計算されるものです。効率性係数は、次回以降の診療報酬改定でDPCの退出ルールの一つ「在院日数の適正化の指標」と関係性が強いことが言われています。
20年度の機能評価係数II公開情報から、効率性係数が「0」であった病院は全1755病院中44病院であることが示されました。おそらく、DPC退出ルールの計算となるのは22年度の機能評価係数IIとなるため、20年10月~21年9月の提出データが重要となります。在院日数の適正化は病院全体で改善行動を起こす必要があるため、早期から対策をとっておきましょう。
月に1症例以上ある全国的に多い疾患に注意
効率性係数は表2の計算式により計算されます。つまり、以下を正しく理解する必要があります。
- 自院の平均在院日数とイコールではない
- 全国的に症例数の少ない疾患の在院日数をどんなに短くしても、係数に与える効果は小さい
- 全国的に症例数が多く自院で少ない(月に1症例以上)疾患の在院日数が長ければ、効率性係数は少なくなる
全国の平均在院日数をもとに計算されるため、疾患構成は基本的に関係ありません。病床規模が大きな病院のほうが症例ごとの在院日数による差異が少なくなるため係数はブレにくく、病床数の少ない病院や専門病院のほうが係数のブレが生じやすくなります。問題は、全国で症例数の多い疾患に対する入退院支援です。
表3は、20年3月25日に公開された最新DPC公開データ(18年度のもの)を用いて計算した、DPC対象病院におけるDPCコード別症例数の多い順の上位20位までを示したものです。参考までに、全国の平均在院日数と言われる入院期間IIの設定日数を表内の右に示しています(H30=平成30年度の設定、R2=令和2年度の設定)。
公開データは2年前のものではありますが、全国の疾患構成は大きく変わるものではありません。最新データは地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟等の回復期病棟の活用が増え、表3よりも一般病棟の平均在院日数はさらに短くなっている疾患もあることも予想できます。
効率性係数の改善のカギは入退院支援の強化です。医師はもちろん、MSWや薬剤師、栄養士、ケアマネジャー等、多職種かつ自院を越えて、地域を巻き込んだ良好な関係の下で行われることが大切であることは言うまでもありません。
効率性係数が伸びない病院の多くが「肺炎・誤嚥性肺炎」といった感染症症例や、「心不全(手術・処置なし)」といった高齢者で積極的な治療を行わない症例の在院日数のコントロールに苦労されている印象があります。無理に在院日数を短くしようとして、退院時のアセスメントが疎かになり再入院が増えてしまうという悪循環も避けなければなりません。
後方連携先のスタッフにケアの方法を正しく伝える勉強会を実施することで、入退院がスムーズに行えるようになった医療機関もあります。
ぜひ、地域を巻き込んだ在院日数の適正化を行うことで効率性係数を向上させる、良い循環を作り上げてください。(『最新医療経営PHASE3』2020年8月号)
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。