これから始める病院原価計算
第8回
先行きが不透明なときは
複数のシナリオを想定し状況に応じたプランを検討

新型コロナウイルス感染症により、病院経営は先の見通しが立たない状況となっている。そうしたなか、予測を立てるための指標として有効なのが、損益分岐点だ。算出したうえで複数のシナリオを想定しておけば、その後の対応がスムーズになる。

コロナ禍の影響で先行き不透明な病院経営

新型コロナの影響により、多くの病院が減収減益になっています。オンライン診療の普及などで患者の受療行動が変わる可能性もあり、収束したとしても元の状態に戻るかどうかは不透明な状況です。このように、外部環境の変化による影響の見通しが立たないときは、複数のシナリオを想定したプランを検討することが重要になります。

将来の予測をするときは損益分岐点の算出が有効

こうした場面で有効なのが、損益分岐点の算出です。損益分岐点とは、収入から費用を引いた値がゼロになるポイントを指します。たとえば、患者数が100人で患者単価が5万円の場合、収入は500万円と計算できます。このとき、医薬品費や診療材料費など、患者数の増減に比例する変動費が100万円(対収入比=20%)かかっていたとすると、収入から変動費を引いた値(=限界利益)は400万円になります。こうして算出した限界利益と、患者数の増減に関係なく発生する人件費や設備関係費などの固定費が同額の400万円であれば、そのポイントが損益分岐点になります。
この前提をもとに、患者数が1割減少した場合の損失額を試算してみます。患者数の増減に比例する収入は450万円、変動費は90万円となり、限界利益は360万円に減少します。この状況で固定費が400万円のままだとすると、40万円の赤字が生じてしまうことがわかります。

複数のシナリオを想定しシミュレーションを実施

図1は、福岡県に所在する病院の前年度収支をもとに損益分岐点を算出したものです。患者数前年比が96.8%を下回る赤字になることが予測されます。
表は、患者数の前年比に応じた医業利益のシミュレーション結果を示しています。同院における4月の患者数は前年比19.7ポイント減だったため、今後も80%で推移することを前提にすると、年間で5.85億円の赤字が見込まれます。
いずれも必要最低限の変数で算出した参考値であり、実際にそうなったときの結果と異なる可能性は否定できません。しかし、このくらいの損失が生じることを想定した計画を立てておくと、その後の対応がスムーズになります。

改善案の内容ごとに実行時の効果を試算

患者数が減ることを前提にすると、経営改善の方法は、①患者単価を上げる、②変動費を下げる、③固定費を減らす――ことの3パターンしかありません。
同院の管理者会議では、①施設基準の変更や診療パスの見直し、②共同購買への参加や後発医薬品の使用促進、③残業時間の削減や職員退職時の補充見送りなどの改善プラン――が挙がり、実現可能性が高い施策の効果を試算したところ、年間3.2億円の改善が見込めました。
図2は、すぐに着手することが決まった残業時間削減の効果を表したものです。5月の時間外手当前年比を職員ごとに確認したところ、4月に比べ900万円改善していました。その他の施策を含めても黒字化の見通しは立っていませんが、改めて算出した損益分岐点となる患者数前年比の予測値は、88.2%に改善しています。(『最新医療経営PHASE3』2020年8月号)

小川陽平(株式会社メハーゲン医療経営支援課)
おがわ・ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院.com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成