Dr.相澤の医事放談
新型コロナ対策で得た教訓を活かした医療体制を構築しよう
新型コロナウイルス感染症対策は、5月25日にすべての都道府県について緊急事態宣言が解除されるなど、落ち着きを見せつつあるが、一方で、「重篤化する感染症への対応」という新たな課題を突きつけられたほか、新型コロナの影響で多くの医療機関が経営的な危機を迎えつつある。相澤孝夫先生に今回の新型コロナから得るべき教訓や今後求められる対策について語ってもらう。
「重篤化する感染症」に対応した医療現場
──新型コロナウイルス感染症対策は、5月25日に全ての都道府県について緊急事態宣言が解除されるなど、落ち着きを見せているようです。
日本の対策は世界からも高く評価されているようですが、その背景には質の高い医療提供体制があると考えています。たとえば人工呼吸器を装着した患者さんの死亡率は欧米諸国に比べて明らかに低いですが、これは、医療従事者の質の高さが背景にあると言っていい。ICUは人員配置をはじめ体制が欧米に比べて脆弱といった指摘がありましたが、そうした評価を跳ね返したわけです。
新型コロナウイルス感染症の治療は本当に大変だったと思います。そもそも従来の感染症治療は、他の人に感染しないように隔離しじっくり治療するというイメージでしたが、今回は、ICUで人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を用いる患者さんもいました。呼吸管理に秀でた医師やICU看護に精通した看護師、あるいは臨床工学士が必要になるなど、これまでとはまったく異なる医療体制が求められたのです。これは、今後の医療体制を考えるうえでも大きなポイントになるでしょう。
現行の医療体制をもとに感染症対策も構築すべき
──地域の病院間における役割分担の必要性も指摘されています。
従来、地域の医療需要を見越して病床数や機能分担を議論してきましたが、「感染症対策」という視点も求められます。経過観察はどこでいつ行うのかといったことも踏まえた治療戦略を基盤に据え、重症患者を診る病床、軽症〜中等症の患者を受け入れる病床、経過観察のための病床や受入施設──と、それぞれ必要な病床数を割り出す作業が必要でしょう。
──専門病院を設ける案もあります。
私は、現行の医療体制を前提に検討すべきだと思います。重症患者や中等症患者を受け入れる専門病院を設けたとしても、そこへ他病院の専門スタッフに集まってもらうのは現実的には難しいでしょう。派遣元の病院にも感染者が来る可能性があるわけですから。それより、重症患者を受け入れる病院ならば10〜20床を専用の病床とし、いざという際は壁などで仕切れるよう改修し、入り口も別にして他の患者さんと動線を完全に分離する、中等症以下の受け入れ病院は1病棟を完全に感染症患者用に用意する──という取り決めを事前にしておくほうが、実行に移しやすいのではないでしょうか。
──目の前の患者さんが陽性か否か判定できず、対応に苦慮する場面もありました。
相澤病院の対応を紹介しておきましょう。当院は陽性患者は基本的に受け入れない方針を立てましたが、発熱患者が救急搬送されてくることはあるので、その場合は専用の病床を用意し、PCR検査の結果が出るまでそこで隔離しました。検査で陽性となった場合は感染症指定病院に転送し、陰性ならば当院の他の病床に移っていただく流れをつくりました。こうした地域連携を前提とした体制が必須です。
地域医療を守るために困っている病院に支援を
──患者数減などもあり病院経営がかなり厳しい局面にあるようです。
当院の状況を見ると、「感染疑い患者」を受け入れるために17床を8床に減らしたので、患者数は当然減りました。外出自粛の影響だと思いますが、熱傷、ケガ、骨折、交通事故などの外傷による救急患者は4割程度減少しています。新規入院患者も診療所や小規模病院からの紹介が減りましたし、健診事業もストップしたので、そうした影響が大きく出ています。
──キャッシュフローへの影響が6月下旬以降に強く出るとみられます。
4〜5月の患者数減のへの影響は6〜7月頃に表れますが、他院や健診センターを経由した患者の減少はさらに2カ月ほどズレこみ、当面、尾を引くと予想しています。
新型コロナの患者さんを受けたかどうかにかかわらず、当院以上に厳しい局面に立たされている病院も多いはずです。仮にこれによって病院が立ち行かなくなると、そこが担っていた役割を他院がカバーしなければならなくなり、地域医療全体にもしわ寄せがきます。そうした事態を避け、より良質な医療体制を構築するためにも、そうした病院に支援が行き届くようにしていくべきです。
──ありがとうございました。(最新医療経営PHASE3 2020年7月号)
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。